最新記事

米経済

観光大国を悩ますビザ地獄

2011年2月10日(木)13時43分
マーサ・ホワイト

 850万平方キロの広大な国土を持つブラジルに、アメリカのビザ発給手続きを受けられる大使館・領事館は何と4カ所しかない。しかも、申請してから面談にこぎ着けるまでに、ひどい場合は3カ月かかる。

 全米旅行協会の試算によれば、アメリカ大使館がある首都ブラジリアから3000キロ余り離れたマナウスに暮らす一家がアメリカに旅行しようと思えば、ビザ取得のために2600ドルもの費用が掛かる。その上、面談の後、ビザが発給されるまでに2、3週間待たされる。

 アメリカの観光産業にとって手痛いのは、特に有力な市場として期待される中国、ブラジル、チリ、アルゼンチン、インドがビザ免除国でないことだ。

 国土安全保障省と国務省がビザ免除国を決める際に基準にしているのは、ビザ申請の却下率だ。これまではその国の国民の却下率が3%以下であることが前提条件とされていたが、07年の法律により基準の緩和が決まった。ほかの基準をすべて満たしていることが条件だが、却下率が10%以下であればよしとされたのである。

 中国は16%、インドは29%なので差し当たり対象外だが、ブラジルは7%。全米旅行協会は、ブラジルがビザ免除国になることを期待している。ホテル大手マリオット・インターナショナルのメリッサ・フローリッチ・フラッド副社長(政府関係担当)によると、ビザの状況が改善すれば、アメリカを訪れるブラジル人観光客は2.2倍に増えるだろうという。

テロ対策との両立が課題

 問題は、07年の法律により、ビザ免除国を追加する前提として新たな出入国記録管理システムの導入が必要になること。アメリカ出国時に渡航者の指紋などの生体認証記録を採取するシステムが導入されるまでは、ビザ免除国を増やせないのだ。

 ところがコスト面の問題が不安視され、この新システムはまだ導入に至っていない。しかも人権団体は、プライバシー侵害だとして生体認証記録の採取に反対している。

 観光振興公社も全米旅行協会も、ビジネスのためにテロ対策を犠牲にしているとは思われたくない。ビザ手続きの簡素化を訴えていく上では、慎重に振る舞わなくてはならない。

 技術的には、指紋読み取り装置とセットでテレビ会議システムを導入すれば、領事が遠隔地の人を面談してビザを発給できるようになる。ただし、この種のシステムを整備するには莫大な費用が掛かるし、試験プログラムを始めるだけでも議会の承認が必要だ。

 ハードルは高い。だがこの問題を克服すれば、2015年には外国人観光客が09年に比べて2790万人増加し、観光収入が1000億ドル以上増える可能性があると、米商務省は試算している。あっさり諦めるには、あまりに大きな金額だ。

Slate.com特約

[2011年1月12日号掲載]

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

再送-イスラエル、ガザ南部で軍事活動を一時停止 支

ワールド

中国は台湾「排除」を国家の大義と認識、頼総統が士官

ワールド

米候補者討論会でマイク消音活用、主催CNNが方針 

ワールド

米石油・ガス掘削リグ稼働数、22年1月以来の低水準
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:姿なき侵略者 中国
特集:姿なき侵略者 中国
2024年6月18日号(6/11発売)

アメリカの「裏庭」カリブ海のリゾート地やニューヨークで影響力工作を拡大する中国の深謀遠慮

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    この「自爆ドローンでロシア軍撃破の瞬間」映像が「珍しい」とされる理由

  • 2

    森に潜んだロシア部隊を発見、HIMARS精密攻撃で大爆発...死者60人以上の攻撃「映像」ウクライナ公開

  • 3

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS攻撃「直撃の瞬間」映像をウクライナ側が公開

  • 4

    メーガン妃「ご愛用ブランド」がイギリス王室で愛さ…

  • 5

    米モデル、娘との水着ツーショット写真が「性的すぎ…

  • 6

    FRBの利下げ開始は後ずれしない~円安局面は終焉へ~

  • 7

    米フロリダ州で「サメの襲撃が相次ぎ」15歳少女ら3名…

  • 8

    接近戦で「蜂の巣状態」に...ブラッドレー歩兵戦闘車…

  • 9

    ニシキヘビの体内に行方不明の女性...「腹を切開する…

  • 10

    「ノーベル文学賞らしい要素」ゼロ...「短編小説の女…

  • 1

    ニシキヘビの体内に行方不明の女性...「腹を切開するシーン」が公開される インドネシア

  • 2

    接近戦で「蜂の巣状態」に...ブラッドレー歩兵戦闘車の猛攻で、ロシア兵が装甲車から「転げ落ちる」瞬間

  • 3

    早期定年を迎える自衛官「まだまだやれると思っていた...」55歳退官で年収750万円が200万円に激減の現実

  • 4

    認知症の予防や脳の老化防止に効果的な食材は何か...…

  • 5

    米フロリダ州で「サメの襲撃が相次ぎ」15歳少女ら3名…

  • 6

    毎日1分間「体幹をしぼるだけ」で、脂肪を燃やして「…

  • 7

    堅い「甲羅」がご自慢のロシア亀戦車...兵士の「うっ…

  • 8

    カカオに新たな可能性、血糖値の上昇を抑える「チョ…

  • 9

    この「自爆ドローンでロシア軍撃破の瞬間」映像が「…

  • 10

    「クマvsワニ」を川で激撮...衝撃の対決シーンも一瞬…

  • 1

    ラスベガスで目撃された「宇宙人」の正体とは? 驚愕の映像が話題に

  • 2

    半裸でハマスに連れ去られた女性は骸骨で発見された──イスラエル人人質

  • 3

    ニシキヘビの体内に行方不明の女性...「腹を切開するシーン」が公開される インドネシア

  • 4

    ウクライナ水上ドローンが、ヘリからの機銃掃射を「…

  • 5

    「世界最年少の王妃」ブータンのジェツン・ペマ王妃が…

  • 6

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々…

  • 7

    接近戦で「蜂の巣状態」に...ブラッドレー歩兵戦闘車…

  • 8

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃の「マタニティ姿」が美しす…

  • 9

    早期定年を迎える自衛官「まだまだやれると思ってい…

  • 10

    ロシアの「亀戦車」、次々と地雷を踏んで「連続爆発…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中