最新記事

経営

アップルを悩ます天才のジレンマ

アップルのジョブズが病気休職する一方、グーグルはCEO交代を発表。カリスマ創業者の正しい「去就」とは?

2011年1月26日(水)14時27分
ジェフリー・ソネンフェルド(エール大学経営大学院教授)

孤高の天才 ジョブズが休養した今、アップルはどこへ向かう?(写真は昨年4月) Robert Galbraith-Reuters

 店のタイル張りの床に椅子が乱暴に倒れる派手な音がして、ガリガリに痩せた1人の若者がこっちに駆け寄ってきた。私たちはマサチューセッツ州ケンブリッジの人気レストラン「ミケラズ」で食事をしていた。

 若者の名はスティーブ・ジョブズ。当時30歳。ジョブズのお目当ては、私ではなかった。同席していたポラロイド社共同創業者のエドウィン・ランドに気付いて、挨拶しようと慌てて席を立って飛んできたのだ。

 この若き新時代の旗手が76歳のランドに情熱的に話し掛けたのは意外だったが、それに輪を掛けて驚いたのは、その若者が誰なのかランドが気付かなかったことだ。ランドはぎこちなく挨拶を返すと、こう言った。

 「こちらはソネンフェルド博士。事業継承の専門家です......ところで、あなたとはどこでお目にかかりましたかな?」

 ジョブズは椅子に腰を下ろして言った。「私はスティーブ・ジョブズです。アップルという会社を創業したのですが、今はネクストという会社を経営しています。事業継承についてもっと早く学んでおくべきだったようです」。ジョブズは、85年5月にアップルのCEOの座を追われてまだ間もなかった。

 ジョブズが自分のテーブルに引き揚げると、ランドは私に言った。「あのジョブズというのは聡明な若者だが、経営者として復活することはないだろう。マーケティングの才覚はあっても、自分が売っているテクノロジーを理解していない」

 知ってのとおり、その後ジョブズは復活した。96年に業績不振に苦しむアップルに復帰し、2000年には再びCEOに就いた。一時は3ドルに低迷していた同社の株価は、ジョブズの下で350ドルまで上昇した。

 先週、ジョブズが病気療養のために09年に続いて休職することが発表されると、ジョブズ抜きでアップルが成長を維持できるのかという不安の声が湧き上がった。...本文続く

──ここから先は1月26日発売の『ニューズウィーク日本版』 2011年2月2日号をご覧ください。
<デジタル版のご購入はこちら
<iPad版、iPhone版のご購入はこちら
<定期購読のお申し込みはこちら
 または書店、駅売店にてお求めください。

■お薦めの関連記事
「『偽ジョブズ』のジョブズ擁護宣言」
─偽スティーブ・ジョブズとして執筆したパロディ・ブログで勇名を馳せた本誌テクノロジー担当記者からジョブズに宛てたコラム
「『神童』たちの経営力は未知数」
─37歳の共同創業者ラリー・ペイジがCEOの座に就くことになったグーグルの今後を占う
<最新号の目次はこちら

[2011年2月 2日号掲載]

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米中貿易枠組み合意、軍事用レアアース問題が未解決=

ワールド

独仏英、イランに核開発巡る協議を提案 中東の緊張緩

ワールド

イスラエルとイランの応酬続く、トランプ氏「紛争終結

ワールド

英、中東に戦闘機を移動 地域の安全保障支援へ=スタ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:非婚化する世界
特集:非婚化する世界
2025年6月17日号(6/10発売)

非婚化・少子化の波がアメリカもヨーロッパも襲う。世界の経済や社会福祉、医療はどうなる?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高にかっこいい」とネット絶賛 どんなヘアスタイルに?
  • 2
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波でパニック...中国の輸出規制が直撃する「グローバル自動車産業」
  • 3
    サイコパスの顔ほど「魅力的に見える」?...騙されずに「信頼できない人」を見抜く方法
  • 4
    林原めぐみのブログが「排外主義」と言われてしまう…
  • 5
    右肩の痛みが告げた「ステージ4」からの生還...「生…
  • 6
    構想40年「コッポラの暴走」と話題沸騰...映画『メガ…
  • 7
    逃げて!背後に写り込む「捕食者の目」...可愛いウサ…
  • 8
    「結婚は人生の終着点」...欧米にも広がる非婚化の波…
  • 9
    4年間SNSをやめて気づいた「心を失う人」と「回復で…
  • 10
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 1
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の瞬間...「信じられない行動」にネット驚愕
  • 2
    大阪万博は特に外国人の評判が最悪...「デジタル化未満」の残念ジャパンの見本市だ
  • 3
    「セレブのショーはもう終わり」...環境活動家グレタらが乗ったガザ支援船をイスラエルが拿捕
  • 4
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 5
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波で…
  • 6
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高に…
  • 7
    ふわふわの「白カビ」に覆われたイチゴを食べても、…
  • 8
    脳も体も若返る! 医師が教える「老後を元気に生きる…
  • 9
    ファスティングをすると、なぜ空腹を感じなくなるの…
  • 10
    アメリカは革命前夜の臨界状態、余剰になった高学歴…
  • 1
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 2
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 3
    日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山、上野...中国返還のその先
  • 4
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊…
  • 5
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 6
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 7
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 8
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシ…
  • 9
    ドローン百機を一度に発射できる中国の世界初「ドロ…
  • 10
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中