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iPadは本当に世界を変えたのか

4月の発売から半年、ゲームはもちろん教育用や産業用までアプリが引き出すiPadの無限の可能性

2010年11月26日(金)15時31分
ジョエル・シェクトマン(ジャーナリスト)

世界的熱狂 中国でもiPad発売日には行列ができた(9月17日、北京) ChinaFotoPress/Getty Images

「Star Walk」は、アップルのタブレット型端末iPadでいま一番人気のあるアプリケーションの1つだ。これを起動したiPadを空にかざすと、その方向にある星や星座の説明が表示される。望遠鏡とプラネタリウムを足して、百科事典の要素を加えたような天体観測アプリだ。

 このアプリが開発されたのは08年のこと。ビクトル・トポルコフ率いる科学者のチームが、雪に覆われたシベリアで半年かけて完成させた。

 コンピューター科学の専門家だったトポルコフは、ソ連崩壊に伴う市場経済の導入で、ロシアの研究者が大活躍する時代が来ると考えた。その予想どおり、現在トポルコフがCEOを務めるビト・テクノロジー社は、iPad時代の勝者になろうとしている。

 iPadが4月初めに発売されて以来、市場にはさまざまなアプリやアクセサリが登場してきた。それは人々の遊び方や学び方、仕事のやり方を変え、書籍や新聞の読み方や映像を見る方法も変えようとしている。そして新しい経済を生み出そうとしている。

「ゲームはまだ始まったばかりだ。新しいアプリの登場でiPadにどんなことができるかがようやく明らかになってきた」と、ハイテク市場調査会社ガートナーのマイケル・ガーテンバーグ副社長は言う。「1年後に振り返ったとき、(iPad活用法の)多様化に驚くことになるだろう」

 発売当初は活用法が分からず、iPadを持て余す人も多かった。iPhoneの大型版だとかパソコンの小型版だと揶揄する声もあれば、アップルは珍しく大間違いを犯したと批判する声もあった。

 だが投資銀行カウフマン・ブラザーズのシニアアナリストであるショー・ウーの推定では、9月の時点でiPadの売り上げは約900万台、周辺機器も合わせると売上額は60億㌦前後に達した。今後5年間の世界出荷台数は4億台に上ると、ウーは楽観的な見方を示している。

アクセサリはドル箱市場

 ウーの推測では、iPad用アプリのダウンロード数はこれまでに延べ数億件。多くのアプリは無料だが、今後は有料アプリのダウンロードが増える可能性が高い。

 アップル自身の発表によれば、サービスを始めた08年から今年7月までにアップルのオンラインショップ「アップストア」からのアプリのダウンロード数は延べ50億件。iPodとiPhone用のアプリしかなかった1月までは30億件だったから大幅な伸びと言える。「Star Walk」は有料アプリ(5㌦)だが、トポルコフによればダウンロード数は毎月「数百万本」に上るという。

 今のところダウンロードされているアプリの半分はゲームだと、ウーはみる。だが開発者がニッチ市場を見つけて大きなビジネスに成長させるのは決して難しくないとトポルコフは言う。例えばiPadのサイズと双方向性は、教育にぴったりだ。

「学生はもはや本から学ぶことに飽き足らず、クリエーティブな学習をしたがっている」とトポルコフは言う。彼の会社ビトは現在複数の教育用アプリを制作しているほか、科学の学習用にiPadを活用する方法を検討している。

 中には衰退しつつある業界の救世主的なアプリもある。特に出版業界はiPadによって活字を読む人が増えることに期待している。現に主だった新聞と雑誌のほとんどがiPad用コンテンツを提供している。ただしその結果がどう出るかは、iPadがある程度普及するとみられる13年まで待たないと分からない。

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