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米経済

メガ雇用回復がやって来る!

客観データが示すこれだけの証拠と、誰もこの朗報を信じない理由

2010年1月13日(水)14時54分
ダニエル・グロス(ビジネス担当)

09年の大半を通じ、アメリカでは自国経済への悲観的な見方が支配的だった。専門家は右派も左派も、政府の金融安定化策は効かない、いや効くはずがないと主張した。だがそれは間違いだった。

 08年秋に創設された不良資産救済プログラム(TARP)は古典的なゾンビ延命策とまで言われた。だが、今年初めには政府の追加支援を受ける状態だった銀行大手バンク・オブ・アメリカは12月9日、TARPで注入された公的資金450億ドルを、利息付きで完済した。

 今年2月に成立した景気対策法も、景気後退を食い止めるには規模が小さ過ぎると言われたが、実際にはかなりの下支え効果を発揮した。3月からの株価高騰も驚きだったが、一番意外だったのは、1〜3月期には年率6・4%のマイナス成長だった経済が、7〜9月期には年率2・8%で拡大し始めたこと。「どんな予想をも上回る、堅実で力強い成長だ」と、ティモシー・ガイトナー財務長官は言う。

 懐疑派は今、米経済が直面する次の大きな課題を注視している。雇用だ。アメリカでは景気後退入りした07年12月以降、720万人の雇用が失われた。今年11月の失業率も、10月に続いて10%に達した。10代の求職者では4人に1人以上が失業している。

 経済学者は、失業率は10年まで10%前後で推移すると考えている。ITバブル崩壊後の前回の景気後退は01年11月に終わったが、その後21カ月のうち17カ月は企業が大幅な人減らしを続けたからだ。

失ったより多くの雇用が生まれる

 だが、雇用は回復しつつある。それも予想よりずっと速いペースで。アメリカ経済は目下、過去の傾向を上回る成長率で回復しており、この調子でいけば、失われた雇用より多くの雇用が生まれる可能性もある。

 11月の就業者数(非農業部門)の減少幅は、前月比1万1000人にとどまった。07年12月以降で最小だ。政府はこの3カ月、雇用統計の速報値を連続して上方修正しており、11月の就業者数は改定値で純増に転じるかもしれない。

 雇用市場の回復にはいつも、4つの段階と長い時間がかかる。第1段階は、企業業績の安定と人員削減の減少だ。新規の失業保険申請件数は依然高水準だが、週ごとの変動をならした4週移動平均では週47万3750件と14カ月ぶりの低水準だ。

 第2段階では、需要の回復に伴って企業がいま居る従業員をもっと働かせようとし始める。労働生産性の伸び率が、2四半期連続で1961年以来の高水準になっているのもそのためだ。

 成長が続くと、第3段階としてパート労働者の労働時間や派遣労働者の雇用が増え始める。11月には、人材派遣部門の雇用者数が5万2000人増加した。04年10月以来で最大の伸びだ。

回復を過小評価する構造

 最後の段階である正社員の雇用も、既に始まっている。それも雇用の86%を占めるサービス部門で本格化しつつある。米労働統計局によれば、サービス部門の11月の雇用者数は5万8000人増加した。2カ月連続の増加だ。雇用主の一例は、12月9日にシカゴにオープンした最高級ホテルのエリージャンで、240人を雇用した。

 これだけ雇用回復の傾向が顕著でも、なぜ楽観的になれないのか。1つには、実際に就職できることはまだ少ないからだ。エリージャンには3000人の求職者が殺到した。7月には、全国の求人1件に対する求職者数が6人以上に達した。

 大恐慌以後で最悪と言われる景気後退で、国全体が沈鬱なムードに覆われているせいもある。07年になっても住宅価格はまだ上がると言い続けて恥をかいた経済予測の専門家たちは、今度はとことん弱気の予測ばかりするようになった。つまり、景気回復を過小評価する構造が出来上がっている。

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