最新記事

展望

中国経済3つのシナリオ

2009年11月10日(火)13時23分
ダニエル・ドレスナー(米タフツ大学国際政治学教授)

 確かに中国政府は金融緩和策で景気後退に先手を打った。しかしそれが結果的に信用バブルを招き、今まさにはじけようとしている。政府が銀行融資の抑制に動くとの懸念が浮上すると、上海株は下がり始めた。8月には株価が22%も急落。今後さらに下落するとの予測もある。

 政治的安定が続く限り中国共産党も消滅しないことは、バブル崩壊派も認めている。しかし中国は新疆ウイグル・チベット両自治区に潜在的な火種を抱えている。労働者の暴動は絶えず、環境破壊もひどくなる一方だ。そうした不安定な状況で、これまでと同じような経済発展が続くと考えるのは賢明ではない。いつか破綻する──バブル崩壊派はそうみている。

 私はというと、3つ目の見方を支持している。これは、成長維持派もバブル崩壊派も正しいという考え方だ。私たちは、19世紀後半から20世紀前半に世界経済の雄へと成長を遂げたアメリカと比較しながら、中国経済をみている。他国から隔絶された地理的優位性もあり、当時のアメリカは思いどおりに移民と資源を受け入れ、製品を輸出する「マシン」だった。

 1890年まで、アメリカ経済は規模も生産力も世界一だった。だが当時は、アメリカにとって平穏な時代ではなかった。移民の増加は都市部で人種問題を生んだ。農業経済から工業経済への移行は、労働者と農家、資本家の間に激しい闘争を引き起こした。金融業界が成熟していなかったため、何度も景気後退や不況に見舞われた。

最悪なのは「経高政低」

 中国が莫大な富と権力を集積させながらも、深刻で不安定な国内問題に苦しめられている状況には、何ら矛盾はない。もっとも、世界にとっては良いこととは言えない。

 中国が着実に成長を続ければ、世界を豊かにする大国の役割を果たすにもさほど苦労しないだろう。逆に成長に陰りが見えた場合は、国際社会で発揮できる指導力は低下するが、同時に期待される度合いも低くなる。

 誰にとっても最悪なのは、中国が経済成長を続けながら内政的には脆弱というケースだ。他国は中国に大国として振る舞うよう期待するが、中国の指導者たちは期待に応えるには自分たちは弱く、もろ過ぎると考えてしまう。

 20世紀初めの40年間、アメリカは国内問題にばかり必死になって、世界で果たすべき役割を認識できなかった。その後はより積極的に国際情勢に関わるようになったが、それまでに要した長い年月は世界にとって大きな痛手だった。

 中国が同じ過ちを繰り返さないように願いたい。      

[2009年10月14日号掲載]

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

中国、レアアース輸出ライセンス合理化に取り組んでい

ビジネス

英中銀、プライベート市場のストレステスト開始へ

ワールド

ウクライナ南部に夜間攻撃、数万人が電力・暖房なしの

ビジネス

中国の主要国有銀、元上昇を緩やかにするためドル買い
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:日本時代劇の挑戦
特集:日本時代劇の挑戦
2025年12月 9日号(12/ 2発売)

『七人の侍』『座頭市』『SHOGUN』......世界が愛した名作とメイド・イン・ジャパンの新時代劇『イクサガミ』の大志

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%しか生き残れなかった
  • 2
    【クイズ】17年連続でトップ...世界で1番「平和な国」はどこ?
  • 3
    日本酒の蔵元として初の快挙...スコッチの改革に寄与し、名誉ある「キーパー」に任命された日本人
  • 4
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇…
  • 5
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させ…
  • 6
    【クイズ】日本で2番目に「ホタテの漁獲量」が多い県…
  • 7
    高市首相「台湾有事」発言の重大さを分かってほしい
  • 8
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙す…
  • 9
    台湾に最も近い在日米軍嘉手納基地で滑走路の迅速復…
  • 10
    見えないと思った? ウィリアム皇太子夫妻、「車内の…
  • 1
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙すぎた...「心配すべき?」と母親がネットで相談
  • 2
    100年以上宇宙最大の謎だった「ダークマター」の正体を東大教授が解明? 「人類が見るのは初めて」
  • 3
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで墜落事故、浮き彫りになるインド空軍の課題
  • 4
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファ…
  • 5
    128人死亡、200人以上行方不明...香港最悪の火災現場…
  • 6
    【寝耳に水】ヘンリー王子&メーガン妃が「大焦り」…
  • 7
    【クイズ】次のうち、マウスウォッシュと同じ効果の…
  • 8
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%…
  • 9
    【クイズ】世界遺産が「最も多い国」はどこ?
  • 10
    【銘柄】関電工、きんでんが上昇トレンド一直線...業…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 4
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 5
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 6
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 7
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 8
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」は…
  • 9
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中