最新記事

中国経済

リオ・ティントも捕まった中国ビジネスの闇

身柄を拘束された外資系社員は数百人。政治上の理由だけでなくビジネス上の利害対立でもいつスパイにされるかわからない

2009年8月19日(水)15時44分
メリンダ・リウ(北京支局長)

事の発端? リオ・ティントが6月に資本提携を断った国有企業チャイナルコの本社(北京)Christina Hu-Reuters

 スターン・フーは英豪系資源大手リオ・ティントの中国責任者として、中国を相手に厳しい姿勢で交渉に臨んできたが、周囲から「誠実な男」と評される人物だ。交渉のテーブルで対峙したことがある中国の鉄鋼業界関係者のなかにも、このオーストラリア国籍のビジネスマンについて好意的な評価を口にする人がいる。

 しかし7月5日、フーは3人の部下と共に中国当局に身柄を拘束された。リオ・ティントの鉄鉱石を中国側がいくらで輸入するかをめぐる価格交渉が長期化し、ついに暗礁に乗り上げた時期のことだ。フーらの身柄拘束を伝える中国の国営メディアの報道には、「スパイ」「国家機密」「贈賄」といった言葉が飛び交っている。

 この「リオ・ティント・スパイ事件」(と中国では呼ばれている)は一番目立ってこそいるが、唯一の例ではない。フーのように中国政府と利害が衝突した外国企業の外国人スタッフが中国の警察に身柄を拘束されたり、刑務所に送り込まれたりする例は少なくない。その人数はこれまでに何百人にも上っている。

 アメリカ人も50人ほどがそういう経験をしている。その1人が医療機器販売業者のジュード・シャオだ。98年に詐欺と脱税の罪で有罪判決を受け、16年の刑を言い渡された。

 しかし容疑を裏付ける信憑性のある証拠はなく、おまけに裁判所の審理の1週間前まで弁護士との接見も許されなかった。逮捕された本当の理由は税務調査官に賄賂を渡さなかったことだと、シャオの釈放運動を精力的に推し進めたスタンフォード大学ビジネススクール時代の友人たちは言う。

外国人と会うのに警察の許可が必要

 1年ほど前に、シャオは仮釈放されて、上海で家族と暮らすことを許された。北京オリンピックの開幕を目前に控えて、中国当局が世界の目を気にしたのだろう。とはいえ、完全に自由の身になったわけではない。仮釈放期間が終了する13年までは、外国人と会うには警察の許可が必要で、上海を離れることも許されていない。

 シャオの釈放を熱心に働き掛けた団体の1つが、サンフランシスコを拠点に主として中国の政治犯の解放を目指して活動している「トイ・ホア(対話)財団」だ。シャオの一件は「中国でビジネスを行うことに伴う危険」を浮き彫りにしたと、同財団の創立者ジョン・キャムは言う。「恣意的に運用される司法制度の下で、政治上の理由で人々が投獄されるだけでなく、ビジネス上の理由によっても投獄が行われている」

 中国で経済犯罪を理由に身柄を拘束される外国企業関係者の多くは、フーのような幹部ではなく現場レベルのスタッフ。そうした中で、リオ・ティントをめぐる中国当局の捜査は異例の徹底ぶりと言っていい。警察は通常より捜査の範囲を広げており、フーの交渉相手だった中国の国有鉄鋼会社の幹部たちの身柄を拘束したり、一般社員に事情聴取を行ったりもしている。中国の鉄鋼産業全体がこの一件で衝撃を受けた。

 中国当局によれば、フーと部下3人の容疑は、国家機密を盗み、スパイ行為を行い、中国の経済的利益に「重大な損害」を与えたというもの。フーらは鉄鉱石の価格交渉を有利に運ぶために、中国側関係者に賄賂を贈って秘密文書を入手していたとされている。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

アングル:熱波から命を守る「最高酷暑責任者」、世界

ワールド

アングル:ロシア人数万人がトルコ脱出、背景に政策見

ビジネス

鈴木財務相「財政圧迫する可能性」、市場動向注視と日

ワールド

UCLAの親パレスチナ派襲撃事件で初の逮捕者、18
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:スマホ・アプリ健康術
特集:スマホ・アプリ健康術
2024年5月28日号(5/21発売)

健康長寿のカギはスマホとスマートウォッチにあり。アプリで食事・運動・体調を管理する方法

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    ロシアの「亀戦車」、次々と地雷を踏んで「連続爆発」で吹き飛ばされる...ウクライナが動画を公開

  • 2

    「なぜ彼と結婚したか分かるでしょ?」...メーガン妃がのろけた「結婚の決め手」とは

  • 3

    アウディーイウカ近郊の「地雷原」に突っ込んだロシア装甲車2台...同時に地雷を踏んだ瞬間をウクライナが公開

  • 4

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 5

    なぜ? 大胆なマタニティルックを次々披露するヘイリ…

  • 6

    黒海沿岸、ロシアの大規模製油所から「火柱と黒煙」.…

  • 7

    批判浴びる「女子バスケ界の新星」を激励...ケイトリ…

  • 8

    これ以上の「動員」は無理か...プーチン大統領、「現…

  • 9

    SNSで動画が大ヒットした「雨の中でバレエを踊るナイ…

  • 10

    戦うウクライナという盾がなくなれば第三次大戦は目…

  • 1

    半裸でハマスに連れ去られた女性は骸骨で発見された──イスラエル人人質

  • 2

    娘が「バイクで連れ去られる」動画を見て、父親は気を失った...家族が語ったハマスによる「拉致」被害

  • 3

    「隣のあの子」が「未来の王妃」へ...キャサリン妃の「ロイヤル大変貌」が話題に

  • 4

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々…

  • 5

    ウクライナ悲願のF16がロシアの最新鋭機Su57と対決す…

  • 6

    戦うウクライナという盾がなくなれば第三次大戦は目…

  • 7

    黒海沿岸、ロシアの大規模製油所から「火柱と黒煙」.…

  • 8

    能登群発地震、発生トリガーは大雪? 米MITが解析結…

  • 9

    「天国にいちばん近い島」の暗黒史──なぜニューカレ…

  • 10

    ロシアの「亀戦車」、次々と地雷を踏んで「連続爆発…

  • 1

    半裸でハマスに連れ去られた女性は骸骨で発見された──イスラエル人人質

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 6

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 7

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 8

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 9

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

  • 10

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中