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中国経済

リオ・ティントも捕まった中国ビジネスの闇

2009年8月19日(水)15時44分
メリンダ・リウ(北京支局長)

世界最大の鉄鉱石輸入国なのに

 その秘密文書の中には、リオ・ティントとの価格交渉で中国側が譲歩していいと考えている最高額、中国のすべての鉄鋼メーカーの在庫の量、生産コスト、生産スケジュール、生産のプロセスに関わるその他の詳細な情報の数々が含まれていたという。

 リオ・ティントを取り巻く環境は、フーが逮捕される前から厳しくなり始めていた。同社は中国国有企業である中国アルミ業公司(チャイナルコ)から195億ドルの出資を受けることで一旦は合意していたが、6月に合意を破棄。それ以来、中国のメディアでは同社を敵視する報道が強まっていた。

 そうした状況下で7月、リオ・ティントと中国側の間で鉄鉱石の輸入価格をめぐる交渉が暗礁に乗り上げたとき、当局による摘発が始まった。

 建設産業と自動車産業の好況に沸く中国は、今や世界最大の鉄鉱石輸入国。中国政府はこれまでリオ・ティントと英豪系のBHPビリトン、ブラジルのヴァーレ(旧リオ・ドセ)という世界の3大鉄鉱石生産業者と同時に交渉を進めてきた(この3社で中国の鉄鉱石輸入の4分の3近くを占める)。

 フーの逮捕は、ホットな中国市場への参入を目指す外国企業の幹部たちの背筋を寒くさせた。フーとリオ・ティントの母国であるオーストラリアのスティーブン・スミス外相は7月12日、フーらのスパイ容疑について中国当局が何の証拠も示していないと指摘。「国際的なビジネス界に及ぼす影響」は大きいだろうと警告した。

曖昧な国家機密法でビジネスに介入

 中国で逮捕された外国人の企業関係者が全員、まったく後ろ暗いところがないなどと言うつもりはない。おそらく実際はその逆だろう。本当の問題は、中国の司法制度の下では最後まで真実が分からないままになる恐れがあることだ。

 この国の司法制度は、複雑さを増すビジネスと政治の現実にまったく追い付いていない。裁判所や警察で汚職が蔓延し、法の執行が平等に行われないなど、司法の透明性が欠けている。

 そのせいで、中国では法律より政治が上に立つ。今回のリオ・ティント事件で明らかになったように、当局は曖昧な内容の国家機密法を口実にして、反体制派を弾圧するだけでなく、気に食わない外国企業の幹部に制裁を加えることもできる。

 ニューヨーク市立大学のジョン・フランケンスタイン教授(中国研究)の言葉を借りれば、中国の体制は、「いかなる時にいかなる状況においても、いかなる商取引にも合法的に介入できる」。言い換えれば、政治的に微妙な問題にさえ首を突っ込まなければ中国でも大丈夫という「常識」を真に受けると、痛い思いをしかねない。

 中国でビジネスを行う外国企業の幹部は十分に気を付けたほうがいい。とりわけやり手のビジネスマンは、いざというときに備えて中国の刑事裁判の知識を身に付けておくのが身のためだ。

[2009年7月29日号掲載]

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