最新記事

自動車

デリーがデトロイトを追い越す日

破綻寸前のアメリカ自動車メーカーの苦境を尻目に激安車と電気自動車でインドが世界に攻勢をかける

2009年4月21日(火)16時41分
ダニエル・ペッパー

世界で一番売れている電気自動車「レバ」はインド製だ Ivan Alvarado-Reuters

 インドの自動車産業はアメリカの自動車産業を追い抜くのか。たぶん、それにはまだ時間がかかるだろう。だが破綻寸前のゼネラル・モーターズ(GM)とクライスラーが生き延びるのに必死な一方で、インドの自動車メーカーは猛烈な攻勢をかけている。

 インドの自動車大手タタ・モーターズは4月1日、待ちに待った(そして宣伝しまくった)小型車ナノを発売。4人乗りでエアコンもオプションで付き、ガソリン1リットルで約23・6キロを走る。それでも価格は11万ルピー(約21万円)と破格の安さだ。ナノが世界的なヒットになるのは間違いないと専門家は見る。

 それだけではない。アメリカの自動車メーカーはようやくエコカーに本気で投資し始めたばかりだが、インドには今世界で一番売れている電気自動車「レバ」がある。

 ナノに比べるとレバの知名度はかなり低い。だが製造元のレバ・エレクトリック・カー社によれば、01年の発売以降レバはアジアと南米の途上国を中心に3000台以上売れた。その走行距離をあわせると5400万キロを超えるという。

 レバはハッチバックタイプの2ドア車で、大きさは全長2.6メートル。クールなデザインとはいえないが、ヨーロッパでは環境意識の高いセレブの愛用車としても注目を集めつつある。

 減税措置や補助金を計算に入れると、レバの標準モデルのインドでの価格は約30万ルピー。6月に発売予定の最新モデル「レバL−ion」は、効率を改善したリチウムイオン電池と太陽光発電パネルを搭載して、価格は70〜80万ルピーになる予定だ。

 外国で手に入れようとすると税金や輸送費などのコストがかかる。それでも2010年末に発売予定のGMの電気自動車シボレー・ボルト(基本価格約4万ドル)よりずっと手ごろな価格になるはずだ。

最高時速は80キロだが

 レバがトヨタやタタ、あるいはGMといった既存の大手自動車メーカーの存在を脅かす可能性は薄い。だが精彩を欠いた自動車業界で、レバは驚くほど鮮やかな光を放っている。

 レバの08年の世界販売台数は約500台だったが、今年はその3倍に増えそうだ。しかも世界経済が低迷するなか、バンガロールに年間3万台の生産能力を持つ最先端の工場を完成させつつある。

 この車がGMのボルトやトヨタのプリウス、そしてタタ・ナノと決定的に違うのは、都市部を走る小型車として設計されていることだ。現行モデル「レバi」の最高時速は80キロで、フル充電時の走行可能距離はたった80キロだ(L−ionでは120キロ)。

 多くのアメリカ人は実用的でないと思うかもしれない。だがヨーロッパではちょうどいい仕様と受け止められているようだ。

 イギリスでは「ジーウィズ」という名で売られているレバは、ロンドンで通勤車として人気を集めている。なにしろロンドンでは電気自動車にさまざまな特典が認められている。駐車料金の割引や道路税の免除に加えて、市中心部を通過する車に課される渋滞税も全額免除だ。

 ジーウィズはネット注文が可能で、自宅に納品してもらうこともできる。エネルギー制御システムを定期的にチェックしにくる「整備士」の主な工具はパソコンだ。そんなこともあり1000台以上が売れている。

「ジーウィズならガソリンを満タンにするのと同じコストで1カ月運転できる」と、レバのヨーロッパ部門を統括するキース・ジョンソン社長は言う。同社は他のヨーロッパ諸国にも進出して、消費者と政府両方の支持を集めている。

 ノルウェーではレバの購入者には輸入税と付加価値税が免除されるし、バスレーンを走行することもできる。フランスでは購入者に3000ユーロの補助金が支給される。多くのヨーロッパの都市は、充電スタンドの増設を計画している。

アメリカ進出の日も近い?

 レバ社はEU(欧州連合)圏内の10カ国で現地の代理店と契約しており、09年末までにさらに10の代理店と契約を結ぶ計画だ。東南アジアと南米でも販売網を構築している。だがアメリカ市場への参入は簡単ではなさそうだ。

 アメリカの安全基準とテスト基準は非常に厳しく、これをクリアするには多大なコストがかかる。だが実はレバとアメリカの関係は深い。レバは電気自動車関連のアメリカ特許も10件保有している。

「わが社のサプライヤーはカリフォルニアとインドにいる」と、サンフランシスコのベンチャー投資家ドレーパー・フィッシャー・ジャーベトソンは言う。ジャーベトソンの会社は他の2社とあわせてレバに2000万ドルを投資した。

 だからレバがアメリカ進出を諦めたと思わないほうがいいと、創業者で最高技術責任者のチェタン・マイニは言う。レバは新しいモデルを毎年発表する計画で、その1つがいつかアメリカの道路を走るようになる可能性はある。

 レバは今後もヨーロッパ市場での基盤を強化していく計画だ。アイルランド西部の町ゴールウェーに住むショーン・マグワイアは、1年前にレバを購入してからすでに1万キロ近くを走っている。サッカーファンのマグワイアは、地元のスタジアムにもレバで行って充電を済ませる。

 信頼性や運転性に心配はなかったのか。「インドのひどい道路を走れるんだから、アイルランドの片田舎にはもってこいだと思った」とマグワイアは言う。「最高だよ」

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

豪GDP、第2四半期は前年比+1.8%に加速 約2

ビジネス

午前の日経平均は反落、連休明けの米株安引き継ぐ 円

ワールド

スウェーデンのクラーナ、米IPOで最大12億700

ワールド

西側国家のパレスチナ国家承認、「2国家解決」に道=
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:豪ワーホリ残酷物語
特集:豪ワーホリ残酷物語
2025年9月 9日号(9/ 2発売)

円安の日本から「出稼ぎ」に行く時代──オーストラリアで搾取される若者たちの実態は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「怖すぎる」「速く走って!」夜中に一人ランニングをする女性、異変を感じ、背後に「見えたモノ」にSNS震撼
  • 2
    50歳を過ぎても運動を続けるためには?...「動ける体」をつくる4つの食事ポイント
  • 3
    「見せびらかし...」ベッカム長男夫妻、家族とのヨットバカンスに不参加も「価格5倍」の豪華ヨットで2日後同じ寄港地に
  • 4
    東北で大腸がんが多いのはなぜか――秋田県で死亡率が…
  • 5
    上から下まで何も隠さず、全身「横から丸見え」...シ…
  • 6
    1日「5分」の習慣が「10年」先のあなたを守る――「動…
  • 7
    トレーニング継続率は7倍に...運動を「サボりたい」…
  • 8
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害…
  • 9
    Z世代の幸福度は、実はとても低い...国際研究が彼ら…
  • 10
    「人類初のパンデミック」の謎がついに解明...1500年…
  • 1
    東北で大腸がんが多いのはなぜか――秋田県で死亡率が下がった「意外な理由」
  • 2
    1日「5分」の習慣が「10年」先のあなたを守る――「動ける体」をつくる、エキセントリック運動【note限定公開記事】
  • 3
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ女性が目にした光景が「酷すぎる」とSNS震撼、大論争に
  • 4
    50歳を過ぎても運動を続けるためには?...「動ける体…
  • 5
    25年以内に「がん」を上回る死因に...「スーパーバグ…
  • 6
    豊かさに溺れ、非生産的で野心のない国へ...「世界が…
  • 7
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害…
  • 8
    首を制する者が、筋トレを制す...見た目もパフォーマ…
  • 9
    「怖すぎる」「速く走って!」夜中に一人ランニング…
  • 10
    上から下まで何も隠さず、全身「横から丸見え」...シ…
  • 1
    こんな症状が出たら「メンタル赤信号」...心療内科医が伝授、「働くための」心とカラダの守り方とは?
  • 2
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 3
    デカすぎ...母親の骨盤を砕いて生まれてきた「超巨大ベビー」の姿にSNS震撼「ほぼ幼児では?」
  • 4
    デンマークの動物園、飼えなくなったペットの寄付を…
  • 5
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果…
  • 6
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 7
    山道で鉢合わせ、超至近距離に3頭...ハイイログマの…
  • 8
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 9
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 10
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中