最新記事

ティーパーティーを素人集団と侮るな

ティーパーティーの正体

アメリカ政治を脅かす怒れる民衆
中間選挙の行方は彼らの手に

2010.10.13

ニューストピックス

ティーパーティーを素人集団と侮るな

市民による草の根運動のイメージとは裏腹に、政治経験豊富なツワモノ候補者がそろっている

2010年10月13日(水)12時05分
デービッド・グラハム

百戦錬磨 デラウェア州の共和党上院議員候補に勝利したオドネルは、悪魔崇拝について語るような変人だが(9月14日) Tim Shaffer-Reuters

 急進的な保守派による市民運動のティーパーティーはしばしば、「政治経験の浅い素人集団」扱いされる。そうすることが、リベラル派にも保守派にもメリットになるからだ。

 保守派にとっては、ワシントンの腐った政治家を追い出したいという理想に燃えるポピュリストたちの純粋な草の根運動というイメージは好都合だ。一方、リベラル派にとっては、ティーパーティー運動の参加者は危険なほどに無知で、自分たちの言動の意味をわかっていないと訴える根拠になる。

 先週末に起きた2つの出来事を振り返ってみよう。まず9月15日、11月の中間選挙の候補者指名を争うデラウェア州の共和党予備選で、ティーパーティーの支援を受けたクリスティン・オドネルが元州知事のベテラン議員に競り勝った。オドネルは悪魔崇拝から性教育までさまざまなテーマについて奇妙な発言を繰り返し、選挙後ずっとニュースを独占している。

 オドネルは「無名の新人」と評されている。確かに上院議員への挑戦は3度目だが、勝ったことはない。2006年には党内の予備選の段階で敗北。08年には共和党の指名を獲得したものの、本選挙では民主党の重鎮でその後副大統領になったジョー・バイデンを相手に惨敗した。

 だがそれ以前は、活動家として長いキャリアがあり、政治トーク番組「ポリティカリー・インコレクト」に20回近く出演した経験もある。つまり、彼女は怒りに燃えて突然ティーパーティー運動に加わった平凡なサッカーママではないのだ。

 2つ目は、ニューヨーク・タイムズ紙が、「ティーパーティー素人説」をあおるような記事を日曜版のトップに掲載したこと。ニューヨーク市長のマイケル・ブルームバーグについての記事の中で、ネバダ州で共和党の上院議員候補の座を勝ち取ったシャロン・アングルを「政界の新参者」と呼んだのだ。

ティーパーティーと共和党の密接な関係

 実際には、アングルは新参者ではない。1999〜2005年の6年間、ネバダ州下院議員を務め、06年には連邦下院議員候補の指名獲得にあと一歩まで迫った。今ではすっかり忘れられた「バラク・オバマは経験不足」という台詞を蒸し返したくはないが、アングルの州議会議員の経験年数は、オバマがイリノイ州議会議員を務めた期間よりやや長い。

「新参者」とは程遠いのはオドネルやアングルだけではない。ティーパーティーの支持を受けている候補者には、十分な政治経験をもつ者が少なくない。


■マルコ・ルビオ(フロリダ州知事候補) フロリダ州下院議員として8年の経験をもち、そのうち2年間は議長を務めた。

■ケン・バック(コロラド州知事候補) 80年代にはイラン・コントラ事件の事態収拾に当たるディック・チェイニー下院議員(当時)の下で働き、後に司法省に勤務。地方検事と連邦検事を務めた。

■スコット・ブラウン(今年1月のマサチューセッツ州補欠選挙で連邦上院議員に選出) 同州の下院議員と上院議員として12年の経験がある。

■ニッキ・ヘイリー(サウスカロライナ州知事候補)同州下院議員を6年務めた。

 もちろん例外もある。例えば、サウスカロライナ州で共和党の下院議員候補に指名されたティム・スコット。アフリカ系アメリカ人の彼が、人種隔離政策を支持した同州の有力政治家ストロム・サーモンドの息子を破ったことで話題になったが、州下院議員の経験は2年しかない。ケンタッキー州で上院議員候補に指名されたランド・ポールも政治経験は浅い。

 それでも、ティーパーティーの候補者を素人扱いするのは的外れだろう。ましてや、ティーパーティー運動の中心人物はベテランぞろい。彼らの多くは共和党主流派とつながっている。

 時事問題をネタにした風刺番組『デーリー・ショー』のホスト、ジョン・スチュワートは、共和党の元下院院内総務で著書『我々に自由を:ティーパーティーのマニフェスト』を売り込むために同番組に出演したディック・アーミーを厳しく非難。アーミーが率いる非営利組織「フリーダムワークス」はティーパーティーの主要グループの一つだが、議会共和党のトップを務めたアーミーが反主流派を名乗るのはおかしいと指摘した。

 ニューヨークタイムズ紙は、長年共和党で資金調達を担当してきたサル・ルッソが、今度はティーパーティーの候補者らのために巨額の寄付を集めていると報じた。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米GDP、第2四半期3%増とプラス回復 国内需要は

ワールド

インドに25%関税、ロ製兵器購入にペナルティも 8

ビジネス

米四半期定例入札、8─10月発行額1250億ドル=

ワールド

ロシア、米制裁の効果疑問視 「一定の免疫できている
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプ関税15%の衝撃
特集:トランプ関税15%の衝撃
2025年8月 5日号(7/29発売)

例外的に低い日本への税率は同盟国への配慮か、ディールの罠か

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅で簡単にできる3つのリハビリ法
  • 2
    枕元に響く「不気味な咀嚼音...」飛び起きた女性が目にした「驚きの光景」にSNSでは爆笑と共感の嵐
  • 3
    【クイズ】1位は韓国...世界で2番目に「出生率が低い」国はどこ?
  • 4
    M8.8の巨大地震、カムチャツカ沖で発生...1952年以来…
  • 5
    一帯に轟く爆発音...空を横切り、ロシア重要施設に突…
  • 6
    いま玄関に「最悪の来訪者」が...ドアベルカメラから…
  • 7
    12歳の娘の「初潮パーティー」を阻止した父親の投稿…
  • 8
    「自衛しなさすぎ...」iPhone利用者は「詐欺に引っか…
  • 9
    街中に濁流がなだれ込む...30人以上の死者を出した中…
  • 10
    日本人の児童買春ツアーに外務省が異例の警告
  • 1
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅で簡単にできる3つのリハビリ法
  • 2
    幸せホルモン「セロトニン」があなたを変える──4つの習慣で脳が目覚める「セロ活」生活のすすめ
  • 3
    囚人はなぜ筋肉質なのか?...「シックスパック」は夜つくられる
  • 4
    いきなり目の前にヒグマが現れたら、何をすべき? 経…
  • 5
    航空機パイロットはなぜ乗員乗客を道連れに「無理心…
  • 6
    中国が強行する「人類史上最大」ダム建設...生態系や…
  • 7
    「様子がおかしい...」ホテルの窓から見える「不安す…
  • 8
    タイ・カンボジア国境で続く衝突、両国の「軍事力の…
  • 9
    中国企業が米水源地そばの土地を取得...飲料水と国家…
  • 10
    【クイズ】1位は韓国...世界で2番目に「出生率が低い…
  • 1
    その首輪に書かれていた「8文字」に、誰もが言葉を失った
  • 2
    頭はどこへ...? 子グマを襲った「あまりの不運」が話題に
  • 3
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅で簡単にできる3つのリハビリ法
  • 4
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 5
    幸せホルモン「セロトニン」があなたを変える──4つの…
  • 6
    「細身パンツ」はもう古い...メンズファッションは…
  • 7
    囚人はなぜ筋肉質なのか?...「シックスパック」は夜…
  • 8
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップ…
  • 9
    ロシアの労働人口減少問題は、「お手上げ状態」と人…
  • 10
    いきなり目の前にヒグマが現れたら、何をすべき? 経…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中