コラム

なぜイスラエルは攻撃を拡大させるのか?...「いつか予想された戦い」と、1年で深めた「独自思考」

2024年10月22日(火)17時25分

故ナスララは「イスラエルは一線を超えた」と何度も非難しつつ、軍事施設を中心に攻撃するなど慎重な姿勢を見せてきた。

ヒズボラはレバノン国内では政党でもある。経済が危機的状況にあるなかで、イスラエルによる攻撃でインフラなどが破壊されれば、その負担は市民生活に重くのしかかり、そのため政治組織として市民の反発を招きかねないからだ。


イスラエル国内ではヒズボラからの攻撃によって避難を余儀なくされた北部住民約6万人の帰還が最重要課題となっており、国民の半数以上がヒズボラへの攻撃を後押ししている。

国内世論を背に、ヒズボラの足元を見たイスラエルは「伸びた草(=軍事力)」を刈り取る「草刈り」に乗り出した。ヒズボラの幹部は軒並み殺害され、ついにはガザでの停戦がなくてもイスラエルとの外交解決を望むという声明さえ出すに至る。

イスラエルは今回、ヒズボラに大きな打撃を与えることには成功するだろう。しかし、ガザ停戦を後回しにした代償として人質解放はさらに遠のき、市民の信頼は損なわれている。

また、ハマス同様にヒズボラを殲滅させることはできない。これまでもハマスに対して「草刈り」が定期的に行われてきたが結局、「草」はいずれ伸びる。

「軍事力でイデオロギーを倒すことはできない。政治的な解決を示すしかない」とイスラエルの情報機関シンベトの元長官アミ・アヤロンが訴えるように、その証左こそが「10月7日」であった。

プロフィール

曽我太一

ジャーナリスト。東京外国語大学大学院修了後、NHK入局。札幌放送局などを経て、報道局国際部で移民・難民政策、欧州情勢などを担当し、2020年からエルサレム支局長として和平問題やテック業界を取材。ロシア・ウクライナ戦争では現地入りした。2023年末よりフリーランスに。中東を拠点に取材活動を行なっている。

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