コラム

中国経済のV字回復が疑わしいこれだけの理由

2020年04月21日(火)18時47分

中国企業46万社が消えた

中国経済の「V字型回復」を腰折れにさせてしまうかもしれない原因の一つは、武漢発の新型肺炎があっという間に地球上に拡散したことにある。今、世界全体で新型コロナウイルスが猛威を振るう中、欧米や日本でも2月の中国と同様に生産・消費活動が大幅に停滞して、一部地域ではほぼ完全に停止してしまった。

欧米や日本で起きているこのような事態は皮肉にも、新型ウイルスの発祥国である中国の経済回復に冷や水を浴びせる結果になっている。

中国経済は今まで、個人消費率が4割未満という慢性的な消費不足(すなわち内需不足)の中でずっと、対外輸出の拡大(すなわち外需の拡大)を牽引力の一つにして高度成長を引っ張ってきた。2010年まで、中国の毎年の対外輸出の伸び率は25%前後を維持して経済全体の成長に大きく貢献した。

2011年以降、人件費の上昇に伴う生産コストの急増とその後の米中貿易戦争の影響で、中国の対外輸出の伸び率は年々下落。2019年は0.5%までに落ちてしまった。それでも2019年の中国の対外輸出総額は2兆4984億ドル、人民元に換算すれば17兆4888億元となっている。2019年の中国のGDPの17.4%に相当するから、輸出に対する中国経済の依存度はなお高い。

その中では、欧米と日本は中国にとっての欠かせない輸出先である。2019年、中国の対EU輸出総額が2兆9600億元、対米輸出総額が2兆8900億元、対日本が9900億元。三者を合わせると6兆8400億元で、中国の対外輸出の約40%を占めている。

今年1~2月期に中国国内の生産システムが停止した結果、対欧米・対日本を含めて中国全体の対外輸出総額は17%減と大きく落ち込み、第1四半期の成長率急落の一因となった。3月以降、中国政府の強力な後押しで全国規模の「生産再開」が急速に進んでいるが、中国の輸出向け産業は新しい難題に直面した。

前述したように、欧米と日本で新型肺炎の蔓延によって消費市場が停止。そしてその結果、中国メーカーの欧米や日本からの生産受注が大幅に減った。万難を排して生産再開の体制を整えた中国沿岸地域の輸出向け企業の多くは肝心の仕事がない。その中では、再度の一時休業や減産体制に追い込まれる企業が多く、そのまま倒産してしまう企業も少なくない。

例えば輸出産業の重要基地・広東省東莞で1200名の従業員を抱える東莞泛達玩具有限公司は3月18日に突然廃業を宣言し、経営者が夜逃げした。東莞精度表業有限公司は21日、一時休業を発表し、従業員に自主的退職を勧めた。同じ日に従業員が4000人もいる東莞佳禾電子有限公司は多くの従業員を「清算」して減産体制に入った。

このような動きは全国に広がっている。4月6日付の香港サウスチャイナ・モーニングポスト紙が紹介した中国の情報調査データベース「天眼査」の調査によると、今年第1四半期において、中国全国で企業46万社が倒産・廃業で企業登録から消えたという。

倒産・廃業した企業の大半が小売などのサービス業であるが、輸出向けの生産メーカーも少なくない。中国全国で対外輸出に関わる企業はおおむね640万社あるが、欧米や日本からの受注激減が今後も続いたら、倒産・休業・減産はさらに広がるだろう。

中国の今後の経済回復は、欧米と日本における新型肺炎の状況に大きく左右されるが、残念ながら4月中旬現在では見通しは全く立っていない。しかも、新型肺炎が世界的に蔓延する中、各国に輸出した中国製のマスクや検査キットの驚くべき品質問題が露呈して、「中国製」の危うさを世界の人々に強く印象付けた。欧米諸国で疫病が収まった後、「中国製」が以前のように再び売れる保証もない。ポスト新型肺炎の時代においてはむしろ、世界の消費市場とサプライチェーンの「脱中国化」が進む可能性が大である。

プロフィール

石平

(せき・へい)
評論家。1962年、中国・四川省生まれ。北京大学哲学科卒。88年に留学のため来日後、天安門事件が発生。神戸大学大学院文化学研究科博士課程修了。07年末に日本国籍取得。『なぜ中国から離れると日本はうまくいくのか』(PHP新書)で第23回山本七平賞受賞。主に中国政治・経済や日本外交について論じている。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

ニュージーランド、中銀の新会長にフィンレイ副会長を

ビジネス

中国の安踏体育、プーマ買収検討 アシックスなども関

ワールド

韓国中銀、政策金利据え置き 緩和終了の可能性示唆

ビジネス

トヨタ、10月世界販売2.1%増・生産3.8%増と
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ガザの叫びを聞け
特集:ガザの叫びを聞け
2025年12月 2日号(11/26発売)

「天井なき監獄」を生きるパレスチナ自治区ガザの若者たちが世界に向けて発信した10年の記録

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで墜落事故、浮き彫りになるインド空軍の課題
  • 2
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファール勢ぞろい ウクライナ空軍は戦闘機の「見本市」状態
  • 3
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるようになる!筋トレよりもずっと効果的な「たった30秒の体操」〈注目記事〉
  • 4
    【クイズ】次のうち、マウスウォッシュと同じ効果の…
  • 5
    7歳の娘の「スマホの検索履歴」で見つかった「衝撃の…
  • 6
    がん患者の歯のX線画像に映った「真っ黒な空洞」...…
  • 7
    ミッキーマウスの著作権は切れている...それでも企業…
  • 8
    あなたは何歳?...医師が警告する「感情の老化」、簡…
  • 9
    ウクライナ降伏にも等しい「28項目の和平案」の裏に…
  • 10
    【クイズ】世界で1番「がん」になる人の割合が高い国…
  • 1
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判殺到、そもそも「実写化が早すぎる」との声も
  • 2
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるようになる!筋トレよりもずっと効果的な「たった30秒の体操」〈注目記事〉
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
  • 5
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 6
    マムダニの次は「この男」?...イケメンすぎる「ケネ…
  • 7
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワ…
  • 8
    海外の空港でトイレに入った女性が見た、驚きの「ナ…
  • 9
    【銘柄】イオンの株価が2倍に。かつての優待株はなぜ…
  • 10
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 6
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 7
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 10
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story