コラム

米中貿易協議は既に破綻しかけている

2019年11月18日(月)17時10分

今年2月に北京で対面したライトハイザー米通商代表と劉鶴副首相 Mark Schiefelbein/Pool-REUTERS

<「原則合意」と報じられながら難航する米中貿易協議は16日、再度閣僚級電話会談を行った。新華社通信は「建設的議論だった」と説明するが、交渉は実際にはかなり行き詰まっている。2週間前の発表との比較でそれは読み解ける>

北京時間の今月16日午前、米中両国代表が貿易問題についての閣僚級電話会談を行った。翌17日、中国の新華社通信はこの会談について次のように配信した。

「11月16日午前、米中貿易協議の中国側代表である劉鶴・共産党中央政治局員・国務院副総理は、(米国側の)要請によりライトハイザー米通商代表部代表とムニューシン財務長官と通話した。双方は第1段階の協議を巡り、各自の核心的関心について建設的な議論を行った。(双方は今後)引き続き密接な交流を保っていく」

以上は新華社通信の配信記事の全文であるが、これは18日付の人民日報2面にも掲載された。この新華社の記事は中国側の正式報道であり、中国政府の正式発表にも相当する。

発表の内容自体は驚くほど短くて簡潔であるが、今までの米中貿易協議の経過を熟知している人なら、それを読んで直ちにいわゆる「第1弾の合意」に向けた米中貿易協議はすでに行き詰まり、かなり難航していることを悟ったはずである。

どうしてそう思うのか。それは、11月1日に行われた前回の米中閣僚級電話協議に関する中国側の正式報道の内容と比較してみれば一目瞭然である。

前回の米中閣僚級電話協議が行われたのは北京時間の11月1日夜であったが、2日に、新華社通信は次のような記事を配信した。

「11月1日夜、中米中貿易協議の中国側代表である劉鶴・共産党中央政治局員・国務院副総理は、(米国側の)要請によりライトハイザー米通商代表部代表とムニューシン財務長官と通話した。双方は各自の核心的関心(問題)の妥当な解決について真剣かつ建設的な議論を行い、原則的な合意に達した。双方はまた、次のステップの協議の段取りについて討論した。(中国側からは)鐘山商務部長(商務大臣)、易鋼中国人民銀行頭取などが通話に参加した」

「記事1」と「記事2」の比較

以上は、11月2日の人民日報にも掲載された新華社通信の配信記事の全文であるが、それを丹念に読んでいれば、11月16日の米中閣僚級電話協議に関する新華社記事との違いが直ちに浮かび上がってくる。ここでは、文章上の便宜のために、11月1日の閣僚級電話協議についての新華社通信記事を記事1と呼び、11月16日閣僚電話協議についての新華社記事を記事2と呼ぶ。

両者を丁寧に読み比べれば、記事1にはあって記事2から完全に抜けている重要な部分があることに気がつく。

プロフィール

石平

(せき・へい)
評論家。1962年、中国・四川省生まれ。北京大学哲学科卒。88年に留学のため来日後、天安門事件が発生。神戸大学大学院文化学研究科博士課程修了。07年末に日本国籍取得。『なぜ中国から離れると日本はうまくいくのか』(PHP新書)で第23回山本七平賞受賞。主に中国政治・経済や日本外交について論じている。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

日経平均は反発で寄り付く、足元マイナス圏 注目イベ

ワールド

トランプ氏、ABCの免許取り消し要求 エプスタイン

ビジネス

9月の機械受注(船舶・電力を除く民需)は前月比4.

ビジネス

MSとエヌビディア、アンソロピックに最大計150億
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:世界も「老害」戦争
特集:世界も「老害」戦争
2025年11月25日号(11/18発売)

アメリカもヨーロッパも高齢化が進み、未来を担う若者が「犠牲」に

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR動画撮影で「大失態」、遺跡を破壊する「衝撃映像」にSNS震撼
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    「ゲームそのまま...」実写版『ゼルダの伝説』の撮影風景がSNSで話題に、「再現度が高すぎる」とファン興奮
  • 4
    マイケル・J・フォックスが新著で初めて語る、40年目…
  • 5
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 6
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 7
    報じられなかった中国人の「美談」
  • 8
    「嘘つき」「極右」 嫌われる参政党が、それでも熱狂…
  • 9
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 10
    「日本人ファースト」「オーガニック右翼」というイ…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 4
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 5
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前…
  • 6
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 7
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 8
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃…
  • 9
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 10
    「ゲームそのまま...」実写版『ゼルダの伝説』の撮影…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 6
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 7
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 10
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story