コラム

「トランプは今後も党のリーダーなのか?」──共和党の「セルフ解体ショー」を見せつけられた議長選挙

2023年01月30日(月)13時16分
ロブ・ロジャース(風刺漫画家)/パックン(コラムニスト、タレント)
象, 共和党

©2023 ROGERS–ANDREWS McMEEL SYNDICATION

<中間選挙の結果、人工妊娠中絶、ウクライナ支援、そもそもトランプと共和党の今後...。党員の対立が激しすぎる「不協和党」の崩壊を見せられるほうは、もはやエンタメ?>

米下院で下院議長を選ぶ投票は忠臣蔵みたいなもの。

最初から結末が分かっているけど、取りあえず見てしまうものだ──本来は。しかし、今回の議長選挙は違った。

中間選挙でぎりぎり過半数の議席を勝ち取った共和党は、リーダー選びにとても苦戦した。15回目の投票でやっと決まったが、10回以上議長選で争ったのは164年ぶり。南北戦争前の時代以来の仲間割れだった。

その当時は奴隷制の是非が内紛のタネだった。今回の争点はもっと複雑。議長選挙を阻止した議員たちは主に「フリーダム・コーカス」という、小さな政府を求めるリバタリアン(自由至上主義)系議員連盟のメンバーだった。

彼らは所得税、法人税そして内国歳入庁(≒国税庁)自体を廃止して、代わりに30%の消費税を導入することなどを目指している。極端すぎると反発する共和党議員も当然多い。税だけに、「しんこく」な対立だ!

ほかにも党内の対立点は山ほどある。中間選挙の結果を受け入れるかどうか。人工妊娠中絶を限定的にでも認めるかどうか。ウクライナへの支援を続けるかどうか。そして何より、ドナルド・トランプを党のリーダーとして今後も認めるかどうか。

重要なテーマで党員の対立が激しいため、今の共和党は全く統率が取れていない状態。完全なる「不協和党」だ。

風刺画でのゾウ(共和党のシンボル)のセリフはもともと、僕の大好きなコメディアンのウィル・ロジャーズが1920年代に当時の民主党に対して残した名言だ。

organizedは「組織された」という意味だから、本来はどの政党にも当てはまる。ロジャーズが自分の支持政党を「そうじゃない」と言ったのは、つまりdisorganized(めちゃくちゃな状態)だと皮肉ったわけ。

一方、風刺画のゾウは体の統制までも失い、極限の状態にある。複数の勢力に分かれ、党としての機能を失っていく共和党を、民主党はどう見ているのか。どうやら、議長選を繰り返す茶番劇を楽しく観賞していたようだ。何人かの議員はポップコーンも用意して議会に登院したという。

確かに、ばらばらに分解されていく光景はいいエンターテインメントになる。マグロの解体ショーよりもすごい。このゾウは自分で自分を解体するのだ。

ポイント

I AM NOT A MEMBER OF ANY ORGANIZED POLITICAL PARTY...
私はいかなる組織された政党の構成員でもない

I AM A REPUBLICAN.
私は共和党員だ

ウィル・ロジャーズ
20世紀初頭のアメリカで映画やラジオ、コラム執筆など幅広い分野で活躍し、当時のハリウッドで最も稼ぐスターの1人だった。ウイットに富んだ社会評論で知られる

プロフィール

パックンの風刺画コラム

<パックン(パトリック・ハーラン)>
1970年11月14日生まれ。コロラド州出身。ハーバード大学を卒業したあと来日。1997年、吉田眞とパックンマックンを結成。日米コンビならではのネタで人気を博し、その後、情報番組「ジャスト」、「英語でしゃべらナイト」(NHK)で一躍有名に。「世界番付」(日本テレビ)、「未来世紀ジパング」(テレビ東京)などにレギュラー出演。教育、情報番組などに出演中。2012年から東京工業大学非常勤講師に就任し「コミュニケーションと国際関係」を教えている。その講義をまとめた『ツカむ!話術』(角川新書)のほか、著書多数。近著に『大統領の演説』(角川新書)。

パックン所属事務所公式サイト

<このコラムの過去の記事一覧はこちら>

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米EV税控除、一部重要鉱物要件の導入2年延期

ワールド

S&P、トルコの格付け「B+」に引き上げ 政策の連

ビジネス

ドットチャート改善必要、市場との対話に不十分=シカ

ビジネス

NY連銀総裁、2%物価目標「極めて重要」 サマーズ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受ける瞬間の映像...クラスター弾炸裂で「逃げ場なし」の恐怖

  • 2

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS攻撃「直撃の瞬間」映像をウクライナ側が公開

  • 3

    サプリ常用は要注意、健康的な睡眠を助ける「就寝前の適切な習慣」とは?

  • 4

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 5

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 6

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミ…

  • 7

    「TSMC創業者」モリス・チャンが、IBM工場の買収を視…

  • 8

    ロシア軍の拠点に、ウクライナ軍FPVドローンが突入..…

  • 9

    元ファーストレディの「知っている人」発言...メーガ…

  • 10

    「500万ドルの最新鋭レーダー」を爆破...劇的瞬間を…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 3

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる4択クイズ

  • 4

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 5

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 6

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 7

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 8

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 9

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 10

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 6

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story