コラム

独裁者っぽさがどんどん増すトランプ(パックン)

2018年11月22日(木)18時50分
ロブ・ロジャース(風刺漫画家)/パックン(コラムニスト、タレント)

Is This Democracy? (c)2018 ROGERS─ANDREWS McMEEL SYNDICATION

<以前から独裁者としての要素を多く持っているトランプだが、中間選挙を経て、民主主義を求める民意に反してさらに独裁的になっている>

彼は社会的な不安が高まるなか、移民や少数民族、外国に対する恐怖をあおった。大衆迎合主義と国家主義の波を起こして選挙に当選した。自分への忠誠を求め、将軍と家族で政府幹部を固めた。メディアや司法機関を支配しようとし、裁判所に自ら選んだ判事を詰め込んだ。権力をもって自己利益を要求し、政敵を制裁した。彼の顔は目の周りだけが白くてあとはオレンジだ。

誰の話か、最後の一文がないと分かりづらいはず。ドナルド・トランプ米大統領のいろいろをつづっただけだが、大半の項目はトルコのレジェップ・タイップ・エルドアン大統領やロシアのウラジーミル・プーチン大統領、フィリピンのロドリゴ・ドゥテルテ大統領、または歴史上の独裁者の多くにも当てはまるだろう。

2年前、ハーバード大学の教授が「大統領が独裁者かどうかが分かる10の特徴」を挙げた。トランプはその中の7つを既にクリアしている。また別の同大学教授2人が『民主主義の死に方』(邦訳・新潮社)という本で独裁政権の特徴を4つ紹介したが、トランプはそのどれも満たしている。本人も独裁者に見えることを嫌がっていないようだ。先月「俺は国家主義者だ」と公言し、大統領令は憲法を超えると主張した。あとはどこかの広場にバカでかい「トランプ像」を建てたら完璧だ。

そんな状況でアメリカは、totalitarianism(全体主義)か democracy(民主主義)を選ぶ重要な選挙を今月6日に行った。当然、民主主義を選んだ国民が圧倒的に多かった。トランプの共和党への反発も強く、民主党は30以上の下院議席を増やし、7つの州知事を、300以上の州議席を勝ち取った。

上院選でも全国の得票数で1600万票近く差をつけ、民主党は共和党に圧勝して議席を......減らしてしまった。実は各州から2人選出されるため、人口が少なく、共和党寄りの州が圧倒的に有利。例えばワイオミング州とカリフォルニア州の間の「1票の格差」は60 倍以上ある。ワイオミングに住んでいる僕の弟ライアン君もカリフォルニアに住む60人分もの票を持っているということだ。これが心配。ライアン君は変な人だから。

でも、問題なのは選挙制度よりも大統領の態度。トランプは選挙後、下院を勝ち取った民主党を「戦闘態勢」で迎えると誓った。司法長官を更迭し、自分を保護する人を長官代理に任命した。メディアを「国民の敵」と言い放ち、気に食わないCNN記者のホワイトハウス入館証を取り上げた。民主主義を求める民意に反して、トランプはむしろ独裁っぽさを増している。

本当に重要な選挙は2020年にあるだろう。

【ポイント】
I GUESS THEY WEREN'T KIDDING WHEN THEY SAID THIS WAS AN IMPORTANT ELECTION...

重要な選挙だって言ってたのは本当だったんだな......。

<本誌2018年11月27日号掲載>


※11月27日号(11月20日発売)は「東京五輪を襲う中国ダークウェブ」特集。無防備な日本を狙う中国のサイバー攻撃が、ネットの奥深くで既に始まっている。彼らの「五輪ハッキング計画」の狙いから、中国政府のサイバー戦術の変化、ロシアのサイバー犯罪ビジネスまで、日本に忍び寄る危機をレポート。

プロフィール

パックンの風刺画コラム

<パックン(パトリック・ハーラン)>
1970年11月14日生まれ。コロラド州出身。ハーバード大学を卒業したあと来日。1997年、吉田眞とパックンマックンを結成。日米コンビならではのネタで人気を博し、その後、情報番組「ジャスト」、「英語でしゃべらナイト」(NHK)で一躍有名に。「世界番付」(日本テレビ)、「未来世紀ジパング」(テレビ東京)などにレギュラー出演。教育、情報番組などに出演中。2012年から東京工業大学非常勤講師に就任し「コミュニケーションと国際関係」を教えている。その講義をまとめた『ツカむ!話術』(角川新書)のほか、著書多数。近著に『大統領の演説』(角川新書)。

パックン所属事務所公式サイト

<このコラムの過去の記事一覧はこちら>

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