コラム

「地雷」だらけ...日本人よりも「空気を読む」ようになった中国人

2023年06月04日(日)16時50分
ラージャオ(中国人風刺漫画家)/トウガラシ(コラムニスト)
「文革2.0」

©2023 REBEL PEPPER/WANG LIMING FOR NEWSWEEK JAPAN

<「文革2.0」に入ったとされる中国は、社会を風刺するコメディアンにとっては冬の時代。生き抜くには、常に権力者の意思を臆測する「特殊能力」が求められる>

日本は「空気を読む社会」と言われる。平気で列に割り込み、電車など公的な場所で大声で電話をかけ、朝晩でも大音量の音楽を流し広場でダンスを踊る中国はその逆だと思われてきたが、今の中国は「空気を読む大国」になっている。

先日、北京で行われた「脱口秀(トークショー、スタンダップコメディー)」の現場で、人気コメディアンのHOUSE(本名・李昊石〔リー・ハオシー〕)が「作风优良 能打胜仗(仕事ぶりが素晴らしく 戦えば勝利する)」という人民解放軍を評した習近平国家主席の言葉を使い、野良犬の勇猛さを褒めた。

観客の一部が抗議し、SNSで批判が広がると、中国政府はHOUSEが所属する会社に1335万人民元(約2億6000万円)の罰金を科し、人民日報などあらゆる官製メディアが「絶対許せない」と非難の大合唱を始めた。

HOUSEはすぐに謝罪したものの警察は捜査を開始。最長で懲役3年を科される可能性がある。

たった一言で大げさに騒ぐのは、空気が読めないトークショー業界への一罰百戒の意味だろう。

経済最優先の鄧小平時代に軍は大した存在でなかったが、習近平時代になって経済より国防やイデオロギー、忠誠心が重要視されるようになった。

台湾統一には軍の力が不可欠で、その地位の向上は避けられない。軍人の士気を高めるため、軍に対する不敬な発言や振る舞いは厳しく取り締まられている。

例えば、軍に関して「炮灰(バオホイ、強制的に招集され死んだ兵士)」という軽蔑の言葉をネットに投稿するとすぐに警察に連行される。

HOUSEはおしゃべり上手だが、政治的な空気を読むのが下手で「地雷」を踏んだ。そもそも政治や社会の皮肉を笑いにするトークショーは民主社会の娯楽文化であり、独裁政権の国には不向きだ。

かつて文化大革命の時代、全ての中国人は政府が指定した8つの革命模範劇しか見ることができなかった。

「文革2.0」に入ったとされる中国で、また同じことが起きても全く不思議ではない。独裁政権の社会を生き抜くため、常に権力者の意思をあれこれ臆測する──中国を含めた「独裁国家の特徴ある空気の読み方」である。

ポイント

脱口秀
英語のtalk showを音訳した言葉。中国語の発音は「トゥオーコウシウ」。主にスタンダップコメディーを指し、近年はネットやテレビ、劇場でも人気が急上昇。「お笑いブーム」が起きていた。

革命模範劇
中国語では「革命様板戯」。1966年に始まった文化大革命の間、毛沢東の妻の江青が指導した。抗日戦争や国共内戦、朝鮮戦争がテーマで、バレエの『白毛女』『紅色娘子軍』が有名。

プロフィール

風刺画で読み解く中国の現実

<辣椒(ラージャオ、王立銘)>
風刺マンガ家。1973年、下放政策で上海から新疆ウイグル自治区に送られた両親の下に生まれた。文革終了後に上海に戻り、進学してデザインを学ぶ。09年からネットで辛辣な風刺マンガを発表して大人気に。14年8月、妻とともに商用で日本を訪れていたところ共産党機関紙系メディアの批判が始まり、身の危険を感じて帰国を断念。以後、日本で事実上の亡命生活を送った。17年5月にアメリカに移住。

<トウガラシ>
作家·翻訳者·コラムニスト。ホテル管理、国際貿易の仕事を経てフリーランスへ。コラムを書きながら翻訳と著書も執筆中。

<このコラムの過去の記事一覧はこちら>

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