コラム

何よりもカネを信じ、すぐ買い占めに走る「中国人」の心理

2021年11月16日(火)18時48分
ラージャオ(中国人風刺漫画家)/トウガラシ(コラムニスト)
中国買い占め騒動(風刺画)

©2021 REBEL PEPPER/WANG LIMING FOR NEWSWEEK JAPAN

<台湾で「買い占めが起きている」と中国メディアが報じると、中国で買い占めが起きた。その心理の根本にあるものとは?>

中国のCCTV(中国中央電視台)ネット版は10月31日、「42.6%の台湾民衆が台湾海峡での戦争を恐れ、一部は買い占めを始めた」という記事を報じた。根拠がない内容で、台湾人は平気で暮らしていたが、何と逆の事態が起きた。中国国内で買い占め騒動が発生したのだ。

きっかけは商務省が11月1日に出した「日常生活における緊急事態に対応するため、各家庭は一定の生活必需品を貯蔵すべき」という通知だ。これは中国人に台湾との戦争を連想させ、後に政府は例年同じ通知を出していると弁解したが、なかには300キロのコメを買い占めた人もいた。

中国人はなぜ買い占めに走るのか。かつて深刻な物資不足の時代を経験しているからだけではない。政府の朝令暮改、政策決定の不透明さ、情報公開不足に根本的な原因がある。中国人はデマを信じやすく不安になりがちで、ちょっとしたことでも慌てて食料や生活必需品を買い占めようとする。

高官が国民の投票でなく、上層部の「関係」によって決められることも政府不信の原因だろう。高官たちは自分より上の権力者の顔色をうかがいがちだ。

ミャンマー国境に接する雲南省瑞麗市は、中央政府の「新型コロナウイルスの感染ゼロ」目標を徹底するため、今年だけで5回もロックダウン(都市封鎖)した。工場や会社は休業となり、ほとんどの人はこの1年間無収入で政府から補助金ももらえない。一方でローンは支払わなければならず、「瑞麗の人々を助けて!」という投稿もネットに出現した。だが市長ら地元官僚は中央からの責任追及を恐れ「生活は安定しており、よそからの援助は必要ない」と、市民の窮状を断固否定した。

中国では、庶民の訴えが簡単に無視される。だから彼らはあれこれ知恵を絞ってカネを儲け、十分な量の食料や生活必需品をそばに置いて初めて安心できる。買い占めだけが唯一、自分と家族を守ってくれる手段なのである。

「中国共産党は中国人民の幸福を図ることを自らの使命としている」と、習近平(シー・チンピン)主席は昨年の重要講話の中で発言した。台湾統一も彼の使命だが、こんな「幸福」なら台湾人は断固お断りだろう。

ポイント

超市、商务部、鼓励家庭储存生活必需品
スーパーマーケット、商務省、「家庭での生活必需品の備蓄を推奨します」。

重要講話
「中国人民の幸福と人類の進歩のために奮闘する」という題名の2020年9月発表の講話。習近平は「中国共産党は中国人民の幸福のためだけの党でなく、世界の人民の幸福をつくる党でもあると各国も認識している」とも述べた。

プロフィール

風刺画で読み解く中国の現実

<辣椒(ラージャオ、王立銘)>
風刺マンガ家。1973年、下放政策で上海から新疆ウイグル自治区に送られた両親の下に生まれた。文革終了後に上海に戻り、進学してデザインを学ぶ。09年からネットで辛辣な風刺マンガを発表して大人気に。14年8月、妻とともに商用で日本を訪れていたところ共産党機関紙系メディアの批判が始まり、身の危険を感じて帰国を断念。以後、日本で事実上の亡命生活を送った。17年5月にアメリカに移住。

<トウガラシ>
作家·翻訳者·コラムニスト。ホテル管理、国際貿易の仕事を経てフリーランスへ。コラムを書きながら翻訳と著書も執筆中。

<このコラムの過去の記事一覧はこちら>

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

米雇用統計、4月予想上回る17.7万人増 失業率4

ワールド

ドイツ情報機関、極右政党AfDを「過激派」に指定

ビジネス

ユーロ圏CPI、4月はサービス上昇でコア加速 6月

ワールド

ガザ支援の民間船舶に無人機攻撃、NGOはイスラエル
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 2
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来が来るはずだったのに...」
  • 3
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が書かれていた?
  • 4
    インドとパキスタンの戦力比と核使用の危険度
  • 5
    日々、「幸せを実感する」生活は、実はこんなに簡単…
  • 6
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 7
    ウクライナ戦争は終わらない──ロシアを動かす「100年…
  • 8
    目を「飛ばす特技」でギネス世界記録に...ウルグアイ…
  • 9
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新…
  • 10
    悲しみは時間薬だし、幸せは自分次第だから切り替え…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 6
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 7
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来…
  • 8
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が…
  • 9
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 10
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 9
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
  • 10
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story