コラム

中国は「巨大赤ちゃん病」の超大国

2018年11月29日(木)11時30分
ラージャオ(中国人風刺漫画家)/トウガラシ(コラムニスト)

China's Big Babies / (c)2018 REBEL PEPPER/WANG LIMING FOR NEWSWEEK JAPAN

<長年一人っ子政策が続いた中国では、体は大人、心は赤ちゃんの「巨大な赤ん坊」がたくさんいて、自分の思い通りにならないと怒りだし、暴走する>

今年の10月末、中国重慶市内の長江に架かる橋を走っていた路線バスが、橋の真ん中で川に転落して、乗客と運転手の計15人全員が死亡した。乗り過ごした女性客が途中下車を要求。運転手がそれを拒んだので最初は口論、最後は殴り合いになり、運転手がバスのハンドル操作を誤って車が川に転落したことが車載カメラの映像から明らかになった。

中国で運転手と乗客のけんかが事故につながるケースは今回が初めてではない。最高人民法院(最高裁)のデータ研究部門によれば、16年1月から18年10月末にかけて、運転手と乗客のけんかが原因で起きた路線バスの衝突事故は刑事訴訟に至ったケースだけでも223件ある。原因は6割がバス代や乗車・降車の場所などの些細なこと。トラブルの中で乗客が運転手を攻撃する比率は54.72%、ハンドルを奪う比率は27.36%と高い。

重慶の事故があったにもかかわらず、四川省の路線バスで最近また女性客がもめ事を起こした。彼女が車内で飲食し終わった後のゴミ袋を運転席の近くに置きっぱなしにしていたため、運転手がそれを注意すると、ゴミ袋を投げ付けながら、大声で「何なら川の中へ突っ込んでやろうか!」とすごんだ。

わがままし放題の乗客は中国で、体は大人、心は赤ちゃんの「巨嬰(巨大赤ちゃん)症」と呼ばれている。30年以上も一人っ子政策を続けた中国は「巨大な赤ん坊」が多い。自己中心的でわがままし放題で、自分の思いどおりにならないと怒りだし、理性を失って感情が暴走する。

「中国式人間関係の特徴はけじめをつけないこと。みんな大きな赤ちゃんだ、という肝心なことを分かってほしい。大きな赤ちゃんだからいつも他人の世話が欲しいのだ」――16年に中国で出版された『巨嬰国(巨大な赤ん坊の国)』という本の一節だ。

ただ、大きな赤ちゃんは自分より弱い人間や自分と同等の人間には威張るのに、自分より強い人間や権力者の前ではおとなしく、反抗しない。中国で路線バスの運転手という仕事は、収入が少なく地位も高くない。だから「巨嬰症」の乗客によくいじめられる。我慢できる運転手は気持ちを抑えるが、我慢できない運転手、あるいは運転手も「巨嬰症」の場合、冒頭のような恐ろしい大惨事につながるのだ。

【ポイント】
『巨嬰国』

中国人心理学者の武志紅(ウー・チーホン)が執筆し、16年に出版された。中国人の集団心理の幼児性を厳しく指摘する内容で、読者から支持されたが当局の怒りを買い、17年に書店から撤去された。

<本誌2018年12月04日号掲載>



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プロフィール

風刺画で読み解く中国の現実

<辣椒(ラージャオ、王立銘)>
風刺マンガ家。1973年、下放政策で上海から新疆ウイグル自治区に送られた両親の下に生まれた。文革終了後に上海に戻り、進学してデザインを学ぶ。09年からネットで辛辣な風刺マンガを発表して大人気に。14年8月、妻とともに商用で日本を訪れていたところ共産党機関紙系メディアの批判が始まり、身の危険を感じて帰国を断念。以後、日本で事実上の亡命生活を送った。17年5月にアメリカに移住。

<トウガラシ>
作家·翻訳者·コラムニスト。ホテル管理、国際貿易の仕事を経てフリーランスへ。コラムを書きながら翻訳と著書も執筆中。

<このコラムの過去の記事一覧はこちら>

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