コラム

誰かと比べると際立つ、故ブッシュ大統領の偉大さ

2018年12月15日(土)13時30分

退任後も愛妻バーバラ(今年4月に死去)と共に国民に親しまれた Diana Walker-Time Life Pictures/GETTY IMAGES

<外交・内政の実質的な成果が過小評価されているが、公正で寛大な良き保守派を代表する指導者だった>

それは象徴的な光景だった。12月5日に首都ワシントンで行われた第41代米大統領ジョージ・ブッシュの国葬でのこと。88年の大統領選で共和党の指名候補の座をめぐりブッシュと熾烈な戦いを繰り広げたボブ・ドール元上院議員は車椅子でかつてのライバルの棺の前に進み出ると、付添人に支えられてよろよろと立ち上がり、棺をじっと見据えて敬礼を送った。

そのしぐさがアメリカ人の総意を代弁していた。「彼は実にいい奴だった」。そんな思いだ。

11月30日に94歳で亡くなったブッシュはおそらくアメリカ史上最も過小評価された大統領だろう。死後時間がたつにつれ、その評価は上がっていくはずだ。

経歴は歴代の大統領の中でも突出して輝かしい。第二次大戦中は米海軍の戦闘機パイロットとして活躍。戦後は石油ビジネスで成功し、下院議員、国連大使、CIA長官、共和党全国委員長、ロナルド・レーガンの下で副大統領を務め、89年に大統領に就任した。

だが指導者としての資質の割に、選挙ではパッとしなかった。再選を果たせなかったばかりか、若き日にテキサス州から出馬した上院議員選でも2回負けている。政界で頭角を現せたのは人徳によるところが大きい。

国際社会のリーダーとしては、およそ不可能に見える離れ業をやってのけた。ソ連のゴルバチョフ共産党書記長と共に東西冷戦を終結に導き、91年末のソ連崩壊後には世界秩序の構築に尽力。91年1月の湾岸戦争では、NATOの同盟国ばかりかアラブ諸国の協力も取り付け、クウェートに侵攻したサダム・フセインのイラク軍を一気に撃退した。だが中東最大の火薬庫の危ういバランスを崩すことは巧みに避けた(自身の息子を含め、後任者にはできなかった業だ)。

内政に目を向ければ、景気後退で再選を果たせなかったものの、政治的なダメージを恐れずに増税に踏み切った点は評価できる。そのおかげでクリントン時代には景気が回復した。

日米の歴史的和解に貢献

ブッシュの偉大さは、現在のホワイトハウスの主と比べるとさらに際立つ。トランプ現米大統領は息子のブッシュ第43代大統領と共和党予備選に出馬した次男のジェブ・ブッシュを口汚くののしったが、父ブッシュは自分の葬儀にトランプを招くよう周囲に指示していた。私怨にとらわれ、取るに足りない出来事を根に持つ誰かとは大違いだ。

だが、最も違いが明らかなのは通商交渉に臨む姿勢だろう。経済大国にのし上がった中国を敵視し、貿易戦争を叫ぶトランプとは対照的に、ブッシュは当時多額の対米貿易黒字を出していた日本に対し、ステイツマン(志高い政治家)らしい抑制の取れた態度で臨み、構造協議への合意を取り付けた。

プロフィール

サム・ポトリッキオ

Sam Potolicchio ジョージタウン大学教授(グローバル教育ディレクター)、ロシア国家経済・公共政策大統領アカデミー特別教授、プリンストン・レビュー誌が選ぶ「アメリカ最高の教授」の1人

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

インタビュー:中国の対日レアアース規制、長期化の可

ワールド

米財務長官、グリーンランド巡る「ヒステリー」否定 

ビジネス

中国、消費促進へ新たな措置を計画 サービス部門が焦

ビジネス

仏産ワインに200%関税とトランプ氏、平和評議会参
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:「外国人問題」徹底研究
特集:「外国人問題」徹底研究
2026年1月27日号(1/20発売)

日本の「外国人問題」は事実か錯誤か? 7つの争点を国際比較で大激論

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「耳の中に何かいる...」海で男性の耳に「まさかの生物」が侵入、恐怖映像と「意外な対処法」がSNSで話題に
  • 2
    「死ぬところだった...」旅行先で現地の子供に「超危険生物」を手渡された男性、「恐怖の動画」にSNS震撼
  • 3
    ピラミッドよりも昔なのに...湖底で見つかった古代の船が明かす、古代の人々の「超技術」
  • 4
    中国のインフラ建設にインドが反発、ヒマラヤ奥地で…
  • 5
    韓国『日本人無料』の光と影 ── 日韓首脳が「未来志向…
  • 6
    中国、欧米の一流メディアになりすまして大規模な影…
  • 7
    【総選挙予測:自民は圧勝せず】立憲・公明連合は投…
  • 8
    上野公園「トイレ騒動」に見る、日本のトイレが「世…
  • 9
    AIがついに人類に「牙をむいた」...中国系組織の「サ…
  • 10
    トランプが「NATOのアメリカ離れ」を加速させている…
  • 1
    【クイズ】韓国を抜いて1位に...世界で最も「出生率が低い」のはどこ?
  • 2
    上野公園「トイレ騒動」に見る、日本のトイレが「世界一危険」な理由
  • 3
    世界初で日本独自、南鳥島沖で始まるレアアース泥試掘の重要性 日本発の希少資源採取技術は他にも
  • 4
    韓国『日本人無料』の光と影 ── 日韓首脳が「未来志向…
  • 5
    正気を失った?──トランプ、エプスタイン疑惑につい…
  • 6
    ピラミッドよりも昔なのに...湖底で見つかった古代の…
  • 7
    「高額すぎる...」ポケモンとレゴのコラボ商品に広が…
  • 8
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 9
    世界最大の埋蔵量でも「儲からない」? 米石油大手が…
  • 10
    【銘柄】「住友金属鉱山」の株価が急上昇...銅の高騰…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?【2025年の話題クイズ5選】
  • 2
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 3
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    中国製防空レーダーは米軍のベネズエラ攻撃に屈した─…
  • 6
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?【202…
  • 7
    「腸が弱ると全身が乱れる」...消化器専門医がすすめ…
  • 8
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 9
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」は…
  • 10
    前進するロシア、忍び寄る限界...勝者に見えるプーチ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story