コラム

トランプ政権、シリア「開戦」の現実味

2018年05月07日(月)12時12分

戦争をめぐるアメリカの世論は実に気まぐれだ Lucas Jackson-REUTERS

<米世論に見るイラク開戦前との不気味な類似――新たな戦争の泥沼がアメリカを待ち受けるのか>

2016年の米大統領選共和党予備選でドナルド・トランプは大方の予想を覆し、主流派候補16人を下した。本人は決して認めないだろうが、この快挙には08年の大統領選でのバラク・オバマの逆転劇と共通点が1つある。

数年前まで大学講師を掛け持ちする無名の州議会議員だったオバマが、民主党予備選で大本命のヒラリー・クリントンに逆転できたのは、イラク開戦を支持したクリントンの決断に異を唱えたからだった。

経験不足をクリントンから指摘されたオバマは、自分はクリントンと違ってイラク開戦に反対したと応酬。これで人気に火が付き、奇跡の大勝利につながった。

トランプはこの戦略をまねた。予備選の序盤、最強の敵はイラク開戦を決断した当時の最高司令官の弟ジェブ・ブッシュ。トランプはイラク戦争には当初から反対だったと主張して(開戦前はメディアで戦争支持を明言していたとの指摘も多いが)共和党の常識に盾突き、支持率を急上昇させた。

シリア、北朝鮮、イラン、ロシアとの軍事的緊張が高まるなか、新たな軍事介入を国民が支持するかどうかを測るには、アフガニスタンと特にイラクでの戦争の泥沼化がアメリカの世論に与えてきた影響を分析することが不可欠だ。

ジョージ・W・ブッシュ大統領がイラク開戦準備を進めていた03年、国民の71%が開戦を支持、反対は27%のみだった。それが現在は開戦の決断を支持する人は43%、反対は48%と大きく様変わりした。

だが早計な判断は禁物だ。戦争をめぐるアメリカの世論は気まぐれで、事態の急展開によっては大きく変動しやすい。

イラク開戦前にそっくり

軍事介入をめぐる世論には大きな「波」があると実際に世論調査を実施した専門家は言う。例えば92年にはアメリカ人の66%がソマリア介入を支持したが、93年首都モガディシオでの戦闘でアメリカ人兵士18人が殺害され遺体が住民らによって引きずり回されると、世論は一変。

94年にルワンダで80万人が虐殺されても、アメリカには介入する倫理的義務はないとの意見が51%に上った。

その後も世論は介入に消極的で、ボスニアでの残虐行為が盛んに報じられても50%が介入に反対。しかし95年東部の町スレブレニツァでイスラム教徒7000人以上が虐殺されると、一転して66%がコソボへの軍事介入を支持した。

「衝撃的」な変化だったが、アフガニスタンとイラクで痛い目に遭って軍事介入への支持は再び下火に。スーダン虐殺への対応を外交政策の最優先課題にすべきだという意見は7%止まりだった。

プロフィール

サム・ポトリッキオ

Sam Potolicchio ジョージタウン大学教授(グローバル教育ディレクター)、ロシア国家経済・公共政策大統領アカデミー特別教授、プリンストン・レビュー誌が選ぶ「アメリカ最高の教授」の1人

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

EU産ブランデー関税、34社が回避へ 友好的協議で

ワールド

赤沢再生相、ラトニック米商務長官と3日と5日に電話

ワールド

マスク氏、「アメリカ党」結成と投稿 自由取り戻すと

ワールド

OPECプラス有志国、増産拡大 8月54.8万バレ
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプvsイラン
特集:トランプvsイラン
2025年7月 8日号(7/ 1発売)

「平和主義者」のはずの大統領がなぜ? 核施設への電撃攻撃で中東と世界はこう変わる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「飲み込めると思った...」自分の10倍サイズのウサギに挑んだヘビの末路
  • 2
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...父親も飛び込み大惨事に、一体何が起きたのか?
  • 3
    「本物の強さは、股関節と脚に宿る」...伝説の「元囚人コーチ」が説く、正しい筋肉の鍛え方とは?【スクワット編】
  • 4
    孫正義「最後の賭け」──5000億ドルAI投資に託す復活…
  • 5
    後ろの川に...婚約成立シーンを記録したカップルの幸…
  • 6
    「やらかした顔」がすべてを物語る...反省中のワンコ…
  • 7
    「飛行機内が臭い...」 原因はまさかの「座席の下」…
  • 8
    「詐欺だ」「環境への配慮に欠ける」メーガン妃ブラ…
  • 9
    職場でのいじめ・パワハラで自死に追いやられた21歳…
  • 10
    反省の色なし...ライブ中に女性客が乱入、演奏中止に…
  • 1
    「飲み込めると思った...」自分の10倍サイズのウサギに挑んだヘビの末路
  • 2
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...父親も飛び込み大惨事に、一体何が起きたのか?
  • 3
    「やらかした顔」がすべてを物語る...反省中のワンコに1400万人が注目
  • 4
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 5
    仕事ができる人の話の聞き方。3位は「メモをとる」。…
  • 6
    後ろの川に...婚約成立シーンを記録したカップルの幸…
  • 7
    【クイズ】「宗教を捨てる人」が最も多い宗教はどれ?
  • 8
    普通に頼んだのに...マクドナルドから渡された「とん…
  • 9
    砂浜で見かけても、絶対に触らないで! 覚えておくべ…
  • 10
    職場でのいじめ・パワハラで自死に追いやられた21歳…
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    「飲み込めると思った...」自分の10倍サイズのウサギに挑んだヘビの末路
  • 3
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 4
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 5
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 6
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 7
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 8
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 9
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 10
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story