地下鉄もストリートと並んで彼のお気に入りの場所だ。本来なら地下鉄もストリートフォトグラフィーの範疇と呼んでいいが、彼自身はストリートと地下鉄の2つを、作品の大きな基本パターンとして分けている。この2つは彼にとって性格がまったく違うものだという。

「地下鉄は、詩でありロマンチックだ。乗客たちはそれぞれ独自の世界、それも大半が静なる世界に入っている......それに対し、ストリートでの撮影は散文と言っていい。複雑でさまざまなことがそこでは起こっている」

ただし、地下鉄での撮影もストリートでの撮影も、その核はサンドラーにとって変わらない。「リアリティを掴み取ること」と彼は言い切る。この、時に詩的で時に複雑な街角の生のヴァイブ(匂いや空気)こそが、彼の作品に魅了させられる理由である。

サンドラーは、写真家としてはスタートが遅い。大学は、ロンドンで鍼灸を専門に学んでいる。また、31歳で本格的に写真を始めるまでは、当時流行し始めていたマクロビオティックのシェフもやっていた。そうした関係からかボストンで居候することになり、その時の恩師の妻からライカをプレゼントされ、またハーバード大学で写真のクラスを聴講したことがきっかけで、運命的な出会いをする。

最も偉大なストリートフォトグラファーの1人と言われるゲイリー・ウィノグランドのワークショップを受講することになったのだ。ウィノグランドの写真感覚を本人から直接学び、また同じくストリートフォトグラフィーの第一人者と言われている、アンリ・カルティエ=ブレッソンの作品を、これまたウィノグランドの講釈つきで学んだのである。

以後、サンドラーは写真にのめり込み、才能が開花していくことになったのだった。ちなみに、それ以前のサンドラーの仕事も彼の写真に少なからず影響を与えている。ストリートフォトグラフィーで決定的瞬間を察知しシャッターを切る瞬間は、鍼師(はりし)が鍼を刺す瞬間に似ているし、暗室での微妙なコントラストとトーンを認識する感覚は、料理の感覚そのものだという。

サンドラーは数年前、ニューヨーク州のアップステートのハドソン川近辺に居を移した。そこで変わらず、毎日のように撮影を、スティールまたはモーションカメラで行なっている。ライカのボディに、21、28、35、50、90ミリというレンズを携帯して。

「その情熱の源は?」と問うと、彼はこう答えた。「インスピレーションが勝手に湧き上がってくる」

今回ご紹介したInstagramフォトグラファー:
Richard Sandler @ohstop1946

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