コラム

72歳、リチャード・サンドラーがインスタグラムに上げる未発表作品

2018年12月14日(金)16時00分

From Richard Sandler @ohstop1946

<著名な受賞歴のある大ベテランのストリートフォトグラファーは、過去の名前だけで生きているのではない>

今回紹介するフォトグラファーは、リチャード・サンドラー。ニューヨークで生まれ育った、72歳の大ベテランである。アーティストと言ったほうがいいだろう。

写真だけでなく、映像も手掛けている。その作品はグッゲンハイム記念財団(映像部門)やニューヨーク・アート財団(写真部門)などで著名なアワードを受賞し、アメリカのさまざまな美術館において永久保存されている。

サンドラーの作品で多大な評価を得ているのは、80年代~90年代にニューヨークで撮影したものが多い。実際、彼がインスタグラムにアップしている作品もその年代のものが大半だ。そしてその理由から、彼をこのブログで取り上げることをためらってきた。

著名な作家だとしても、すでに世に知られた作品だけを発表していれば、単に過去の名前だけで生きています、になってしまう。無論、アーカイブとしてはそれもありだが、現在進行形が大きなポイントになっているインスタグラムでは、それだけでは面白くない。だが彼の場合、そんなケースには単純に当てはまらない。

まず、ここ1~2年、彼がインスタグラムで発表している写真は、大半が未発表のものなのだ。加えて、彼にとっての写真作品とは(その作品は実質上すべてフィルムで撮られたものだが)プリントして初めて完成するもの。つまり、インスタグラム上の作品は、ここ最近完成したものなのである。

もう1つ、彼の作品をいま紹介したい大きな理由がある。写真は、ある種の生き物だ。過去に撮ったものが、時代と共に新たな価値や魅力を付加することがしばしばある。とりわけ、未発表の優れた作品ならなおさらだ――(もちろん、逆もあり得るが)。

サンドラーの作品は、基本的に白黒写真によるストリートフォトグラフィーである。その写真哲学は、このジャンルの手法としてしばしば理想的王道と見なされるcandid、つまり、あるがままの姿で、街とそれに絡みつく被写体を切り取ることを旨としている。実際、人物が被写体の場合でも、ストリートでは声を掛けてから撮るようなことはしないという。

フラッッシュも多用する。最初はニューヨークの街角、とりわけ冬は光が足りないためにフラッシュを使い始めたのだが、そのスローシャッターとシンクロ撮影が作り出すゴースト(幽霊)的な効果の魅力にはまり、多用するようになったという。それもしばしば、至近距離の人物に向かって。

こうしたストリート撮影は、簡単にできることではない。まして、80年代、90年代前半のニューヨークは極めて治安が悪かった。ひとつ間違えば、大きな犯罪に巻き込まれたり大怪我をしたりしてしまう。

だがサンドラーは、子供の頃から小遣い稼ぎに地下鉄などでドゥーワップ (doo-wop、合唱のスタイルの1種) をやっていたこともあり、いかにストリートでディールする(取引する)かを身につけてきたらしい。せいぜい数回殴られただけだ、と彼は言う。

プロフィール

Q.サカマキ

写真家/ジャーナリスト。
1986年よりニューヨーク在住。80年代は主にアメリカの社会問題を、90年代前半からは精力的に世界各地の紛争地を取材。作品はタイム誌、ニューズウィーク誌を含む各国のメディアやアートギャラリー、美術館で発表され、世界報道写真賞や米海外特派員クラブ「オリヴィエール・リボット賞」など多数の国際的な賞を受賞。コロンビア大学院国際関係学修士修了。写真集に『戦争——WAR DNA』(小学館)、"Tompkins Square Park"(powerHouse Books)など。フォトエージェンシー、リダックス所属。
インスタグラムは@qsakamaki(フォロワー数約9万人)
http://www.qsakamaki.com

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