コラム

ホームレスの写真を商業写真家が撮る理由

2017年04月11日(火)15時50分

さらに言えば、彼のポートレイト・シリーズは、そうしたテクニックや感性だけで成り立つものでもない。なぜなら被写体の大半は、社会から取り残され、顧みられることのない、マオリ族を多く含むホームレスたちだからだ。ドラッグや家庭内暴力、ギャングメンバーであった過去といった環境、あるいはPTSDを引きずっているような人々である。

これらのポートレイトでは、被写体への親密感を伴った近づき方が大きな核になる。アプローチの方法をクロフォードはこう語る。最初はほとんど話しかけず、ボディランゲージを通してコミュニケーションをつくり出していく。その後、相手が信頼してくれると感じたら、その時はじめて話しかける。そして、相手が心地よいと感じてくれたら、やっと撮影を開始する、と。

クロフォードはそうしたアプローチを基に、このホームレス・プロジェクトをすでに3年以上続けている。もともとコマーシャル、コーポレイトの写真家である彼がこのプロジェクトに力を入れている理由は何かと尋ねると、ホームレスの問題はここ数年ますます悪化しているにもかかわらず、社会は彼らを相変わらず見放し続けているからだ、と答えが返ってきた。

【参考記事】人間臭さを感じさせる、ディープ大阪の決定的瞬間

社会的責任感が強く、ある種、ポリティカル・コレクト(Political Correct)の人でもある。当初、クロフォードへの質問項目の中で、彼のホームレス・プロジェクトをマオリ族プロジェクトと誤解した際には、2度にわたって注意を促された。マオリ族=ホームレスという誤解が生じるためだ。たとえ、こちらがそう意図していなくても。

とはいえ、クロフォードは、動物シリーズをはじめとして、ユーモアも作品に多く取り入れている。それについて問うと、物事を真面目に考えすぎるのはよくない、時にはスマイルを人にもたらすことも大切さ、と彼は言った。

今回ご紹介したInstagramフォトグラファー:
John Crawford @johnniecraw

プロフィール

Q.サカマキ

写真家/ジャーナリスト。
1986年よりニューヨーク在住。80年代は主にアメリカの社会問題を、90年代前半からは精力的に世界各地の紛争地を取材。作品はタイム誌、ニューズウィーク誌を含む各国のメディアやアートギャラリー、美術館で発表され、世界報道写真賞や米海外特派員クラブ「オリヴィエール・リボット賞」など多数の国際的な賞を受賞。コロンビア大学院国際関係学修士修了。写真集に『戦争——WAR DNA』(小学館)、"Tompkins Square Park"(powerHouse Books)など。フォトエージェンシー、リダックス所属。
インスタグラムは@qsakamaki(フォロワー数約9万人)
http://www.qsakamaki.com

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