コラム

シャッターを切るまでに「半年~1年」と学者のように語った

2017年01月31日(火)17時49分

長期プロジェクト・シリーズ“Talibes, Modern-day Slaves”の1枚 From Mario Cruz @_mariocruzphoto

<2016年世界報道写真コンテスト受賞者のマリオ・クルーズは、論理を先行させる写真家ではないが、論理的な労力を惜しまない>

 写真は――とりわけフォトドキュメンタリーやフォトジャーナリズムは――しばしば撮影以上に、事前の準備とリサーチ、被写体となる人物とのコミュニケーションに重要で膨大な労力と時間を要することがある。今回紹介するマリオ・クルーズは、それを改めて教えてくれる写真家だ。

 アサイメント(依頼された撮影)とパーソナルワークを見事に切り離し、後者の長期プロジェクトの、たとえば2016年のワールド・プレス・フォト(世界報道写真コンテスト)のコンテンポラリー部門ストーリーで1位に入賞した"Talibes, Modern-day Slaves"をはじめとする作品で、一躍名を馳せた。父親も写真家であったため、物心ついた時からカメラを手にしていたという30歳のボルトガル人である。

【参考記事】世界報道写真入賞作「ささやくクジラたち」を撮った人類学者

 作品が完成するまでの過程は、緻密に計算されている。リサーチ段階で可能な限りあらゆる情報を網羅し、また被写体となる人物たちときめ細かに信頼形成を図っていく。その期間は半年から1年ほどかかるが、その間シャッターを切ることはない。それが彼が掴んだ極意だ。

 いざ撮影を開始すれば、撮影までに蓄積したすべての意義ある物語や情報を作品に注ぎ込んでいく。それは徹底的な撮影前の準備があるからできる、とクルーズは言う。Email でのインタビューだったが、彼のそうした言い回しや行間のニュアンスは、どこか学者と話しているような気分にさせてくれた。

長期プロジェクト・シリーズ"Roof"の1枚

プロフィール

Q.サカマキ

写真家/ジャーナリスト。
1986年よりニューヨーク在住。80年代は主にアメリカの社会問題を、90年代前半からは精力的に世界各地の紛争地を取材。作品はタイム誌、ニューズウィーク誌を含む各国のメディアやアートギャラリー、美術館で発表され、世界報道写真賞や米海外特派員クラブ「オリヴィエール・リボット賞」など多数の国際的な賞を受賞。コロンビア大学院国際関係学修士修了。写真集に『戦争——WAR DNA』(小学館)、"Tompkins Square Park"(powerHouse Books)など。フォトエージェンシー、リダックス所属。
インスタグラムは@qsakamaki(フォロワー数約9万人)
http://www.qsakamaki.com

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ガザで激しい戦闘、ICJ停止命令後もイスラエル軍の

ビジネス

米「自然利子率」、今後上昇する可能性も=ウォラーF

ワールド

ICJ、イスラエルにラファ攻撃停止を命令 1カ月内

ワールド

グリーンピース、仏トタルエナジーズ本社近くのビルに
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:スマホ・アプリ健康術
特集:スマホ・アプリ健康術
2024年5月28日号(5/21発売)

健康長寿のカギはスマホとスマートウォッチにあり。アプリで食事・運動・体調を管理する方法

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    戦うウクライナという盾がなくなれば第三次大戦は目の前だ

  • 2

    黒海沿岸、ロシアの大規模製油所から「火柱と黒煙」...ウクライナのドローンが突っ込む瞬間とみられる劇的映像

  • 3

    ウクライナ悲願のF16がロシアの最新鋭機Su57と対決するとき

  • 4

    批判浴びる「女子バスケ界の新星」を激励...ケイトリ…

  • 5

    この夏流行?新型コロナウイルスの変異ウイルス「FLi…

  • 6

    テストステロン値が低いと早死にするリスクが高まる─…

  • 7

    「天国にいちばん近い島」の暗黒史──なぜニューカレ…

  • 8

    日本を苦しめる「デジタル赤字」...問題解決のために…

  • 9

    半裸でハマスに連れ去られた女性は骸骨で発見された─…

  • 10

    「現代のネロ帝」...モディの圧力でインドのジャーナ…

  • 1

    半裸でハマスに連れ去られた女性は骸骨で発見された──イスラエル人人質

  • 2

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 3

    娘が「バイクで連れ去られる」動画を見て、父親は気を失った...家族が語ったハマスによる「拉致」被害

  • 4

    「隣のあの子」が「未来の王妃」へ...キャサリン妃の…

  • 5

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバ…

  • 6

    SNSで動画が大ヒットした「雨の中でバレエを踊るナイ…

  • 7

    ウクライナ悲願のF16がロシアの最新鋭機Su57と対決す…

  • 8

    能登群発地震、発生トリガーは大雪? 米MITが解析結…

  • 9

    「天国にいちばん近い島」の暗黒史──なぜニューカレ…

  • 10

    戦うウクライナという盾がなくなれば第三次大戦は目…

  • 1

    半裸でハマスに連れ去られた女性は骸骨で発見された──イスラエル人人質

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 4

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 5

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 6

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 7

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story