コラム

「物価高対策と財政規律の間の最適解」──ポスト石破に求められる最重要課題

2025年09月10日(水)13時30分

9月7日の会見で石破首相は辞任の意向を表明した Toru Hanai/Pool/REUTERS

<石破政権は、生活支援策だけでなく財政規律について国民に訴えることもしなかった>

石破首相が辞任を表明し、自民党はフルスペックの前倒し総裁選で次期総裁を決めることになりました。野党との連携や、旧派閥間の駆け引きなど、色々なことが言われています。また、過去の首相が「密室コミュニケーション」には秀でていても、首相として「いきなり国民と向き合った」瞬間に、何のコミュニケーションスキルを発揮することもできず、そのまま短期で退陣してきた事実があります。この点については、今度こそ失敗は許されないとも言えるでしょう。

そうではあるのですが、今回の政局は特別です。次の首相に求められることとして、一つの最重要項目があるからです。それは「国民への支援か、財政規律か」という問題に、自分の回答を持っており、それを国民に説明できるということです。


現在の日本では、国民は物価高に苦しんでいます。正確に言えば、可処分所得と物価の関係から、生活水準の切り下げを余儀なくされており、このために大きな苦しみを抱えています。これに対して、政治は応えていかなければなりません。その場合に、次の問題に直面します。

(1)「国民への支援を渋れば、国民の不満が政権に向かいます」

(2)「国民への支援が大きすぎれば、財政は悪化して、国の破綻を早めてしまいます」

非常に単純化して言えば、今年7月の参院選で自民党は、(2)を理由に(1)に対する対処が弱かったので大敗を喫しました。政権が崩壊したのはそのためと言って良いでしょう。ですが、だからといって野党の言うように減税を大きく進めて、財政が思いきり悪化すれば、最後に苦しむのは国民です。

与党であれば財政規律維持の責任は免れない

ですから、誰が首相になろうと、「支援」と「財政規律」という矛盾する問題の間で「最適解」を見つけ、その「最適解」が文字通り「最適」であることを国民に対して説得しなくてはなりません。

石破政権が崩壊したのは、正確に言えば(1)のためだけでなく、(2)の問題について国民に訴えることをしなかったためでもあります。そして、多くの野党が野党という地位に甘んじて、政権批判を続けることで選挙に勝ち続けているのは、(1)の問題だけを訴えていれば勝てるからです。

ですが、自民党は下野するのでなければ与党であり、政権を担う責任があります。野党とは立場が全く違います。国民への支援だけでなく、財政に関する規律を維持する責任からは逃げられないのです。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

トランプ氏 、 ホルムズ海峡に多くの国が軍艦派遣と

ビジネス

イラン情勢注視続く、FRB金利見通しも焦点=今週の

ワールド

イスラエル、レバノンと数日内に協議へ ヒズボラと戦

ワールド

北朝鮮の金総書記、多連装ロケット砲の発射訓練視察=
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:教養としてのミュージカル入門
特集:教養としてのミュージカル入門
2026年3月17日号(3/10発売)

社会と時代を鮮烈に描き出すミュージカル。意外にポリティカルなエンタメの「魔力」を学ぶ

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    温暖化で増えた? サンマやサケ減少の裏で激増する「安価で栄養価の高い魚」の正体
  • 2
    ズボンを穿き忘れてる! 米セレブ、下を穿かず「目のやり場に困る」衣装...「これはオシャレなの?」
  • 3
    「筋肉はモッツァレラと同じ」...なぜウォーミングアップは「2セット」でいいのか?
  • 4
    機内で「人生最悪」の経験をした女性客...後ろの客の…
  • 5
    米軍も防ぎきれないイランのドローン攻撃──イラン製…
  • 6
    幼い子供たちの「おぞましい変化」を克明に記録...「…
  • 7
    ぜんぜん身体を隠せてない! 米セレブ、「細いロープ…
  • 8
    世界の視線は中東から日本へ...企業主導で築くインド…
  • 9
    有人機の「盾」となる使い捨て無人機...空の戦いに革…
  • 10
    【銘柄】「日本マクドナルド」の株価が上場来高値...…
  • 1
    ロシア政府、痛恨のミス...プーチンの「健康不安説」を裏付けるような動画を公式に投稿してしまう
  • 2
    メーガン妃、娘リリベット王女との新ショット公開...撮影はパパ
  • 3
    温暖化で増えた? サンマやサケ減少の裏で激増する「安価で栄養価の高い魚」の正体
  • 4
    「日本より、自分の国(フランス)を心配すれば?」…
  • 5
    米軍も防ぎきれないイランのドローン攻撃──イラン製…
  • 6
    「このままよりはマシだ」――なぜイランで米軍の攻撃…
  • 7
    職業別の収入に大変動......タクシー運転手・自動車…
  • 8
    キャサリン皇太子妃、英連邦デー式典に出席...公開さ…
  • 9
    ズボンを穿き忘れてる! 米セレブ、下を穿かず「目の…
  • 10
    世界の視線は中東から日本へ...企業主導で築くインド…
  • 1
    ロシア政府、痛恨のミス...プーチンの「健康不安説」を裏付けるような動画を公式に投稿してしまう
  • 2
    メーガン妃、娘リリベット王女との新ショット公開...撮影はパパ
  • 3
    温暖化で増えた? サンマやサケ減少の裏で激増する「安価で栄養価の高い魚」の正体
  • 4
    見事なカンフーを見せた中国ヒト型ロボットのからく…
  • 5
    アルコールは血糖値を下げる...「脳と血管を守る」医…
  • 6
    「ヘル・コリア」から日本へ7万人 ── 大企業の高給より…
  • 7
    「日本より、自分の国(フランス)を心配すれば?」…
  • 8
    日本の若者「韓国就職」憧れと現実のギャップ ── ビ…
  • 9
    命は長し、働け女たち――88歳「働くばあさん」が説く…
  • 10
    「水道水」が筋トレの成果を左右する...私たちの体に…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story