コラム

「音大卒では食べていけない」?......ただし、趣味を諦めれば食える時代は既に終わっている

2025年06月11日(水)14時00分

そうなれば、学ぶ側のモチベーションも高いものが必要です。20歳前後で、例えば法務を志すのであれば、21世紀の多国籍企業における業績開示と技術的な守秘義務の「対立と解決」などのテーマに、それこそ音楽やスポーツに取り組むように目を輝かせて学習するような若者が出現することが期待されますし、またそうした若者を育んでいかねばなりません。

会計学であれば、アメリカの会計と税務、EUの会計と税務に精通して適切な決算処理と業績開示を行う実務スキルについて、それこそクラシックのピアノを練習して、コンクールに勝つレベルに持っていくのと同じ、目の輝きと努力の投入ができる若者が、これまた必要です。


そうなれば、ビジネスの世界への参画も「でもしか」オフィスワーカーのような、消極的選択ではなく、アートやスポーツと同じ強い自己モチベーションと、猛烈な訓練による基礎スキルの習得を可能にする積極的な選択になるに違いありません。そのように、ビジネスがアクティブで批判精神の躍動するような知的活動の場になってはじめて、日本も21世紀型の先進国社会に手が届き、OECD加盟国の中で恥ずかしくない生産性を上げることができるでしょう。

仮にそんな社会になれば、「夢を諦めれば食えるようになる」というようなニヒリズムの生き残る場はなくなります。もちろん、それが行き過ぎれば「何も持たず、どこにも居場所のない」層を生み出すことになり、アメリカのような現状否定勢力が暴走するという弊害も出てきます。そうなのですが、日本はまずは現在の停滞を打破するためにも、高いモチベーションを持ったビジネス専門職を養成する段階に進むべきです。

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プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

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