コラム

先輩後輩カルチャーは「キャンセル」するだけでいいのか?

2023年12月20日(水)15時15分

何よりも大切なのは、マネジメントのスキル向上です。部下にプレッシャーを与えて、叱責や降格への恐怖心に押されて結果を出しても、そこには持続性もないし、人材の成長も伴いません。そうではなくて、チームメンバーの自発的なモチベーションを高めるテクニックと、確立された最新のメソッドによるスキル指導技術など、当たり前の管理監督技術を持った人間を組織の長に据えるべきです。

年齢や学年が上、あるいは社歴が長いとか過去の営業成績へのご褒美などといった、マネジメント力とは無関係の条件でリーダーを抜擢して、最初に権力を自動的に与えるという無謀なやり方は断ち切らねばなりません。これは企業の経営だけでなく、官庁もそうですし、大学や中高の部活などでもそうです。


マネジメントのスキルがないままに、単に権力を付与されてしまい、そのために周囲を動かす権威は全くない、そんな状態で権力だけを行使する、こうしたメカニズムこそが、ハラスメントの温床と言えます。ハラスメントに関する事件では、ハラスメントを起こした人物の資質が批判されて終わることが多いですし、せいぜい組織風土とか、カルチャーが批判されて終わりになります。

ですが、問題は違うのです。そうではなくて、リーダーの選び方、リーダーの役割といった組織の設計そのものが問われているだと思います。宝塚事件から忘年会批判まで、今年ようやく始まった「先輩後輩カルチャー」見直しの議論を、是非とも前へ進めるべきです。封建的な慣行をキャンセルするだけでなく、全員がハッピーになって結果を出せる近代的なマネジメントの導入に向けて展開してゆく、これが2024年の課題ではないかと思います。

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プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

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