コラム

トランプ不在の第3回共和党討論会、際立ったニッキー・ヘイリーの強さ

2023年11月09日(木)20時40分

結論から言えば、今回の討論は軍事外交が中心の話題となりました。イスラエルとハマスの戦争においてイスラエルを支持すること、温度差はあれどウクライナを支援すること、台湾海峡が動揺しないように抑止することなど、「強いアメリカ」の復権を強く主張したのが、ニッキー・ヘイリーで、彼女はブッシュ、マケイン流の「軍事タカ派的なクラシックな共和党」という立場で一切ブレず、改めて存在感を見せつけたように思います。彼女は討論の最後を「世界が燃えている今、戦争を抑止するのは強いアメリカだけだ」という決め台詞で結んでいました。

一部の州で進んでいますが、デサンティス候補は今回もパッとしなかったので、恐らくヘイリー候補が2位の座を固めて「トランプへの挑戦者」となるのは時間の問題だと思います。ミレニアル世代を代表して「独自の小さな政府論」を展開する起業家のラムズワミに言わせれば「ヘイリーはハイヒールを履いたディック・チェイニー(元副大統領)」なのだそうですが、そんな皮肉も彼女には勲章になるかもしれないぐらい、今回の討論における彼女の存在感は際立っていました。

これからの展開ですが、3つの流れが進むと考えられます。

依然としてトランプとは大差が

1つは、4つの訴訟を通じてトランプが有罪判決を受ける可能性です。一部の世論調査では、起訴だけなら不当な政治弾圧とも思えるが、本当に有罪になったらトランプ支持を考え直すという有権者は一定数いるようです。有罪判決が次々に出れば、現在共和党内で58%程度あるトランプの支持率が下がってくる可能性はあるかもしれません。

2つ目は、今回の討論の成功に加えて、国際情勢がこのまま問題を抱えて推移するようですと、ヘイリーへの期待感が高まる可能性はあると思います。

3つ目は、現時点ですでに「仮にバイデン対ヘイリーの戦いになった場合」についての投票行動調査では、ヘイリー優位という数字が出ています。今後、インフレの高止まりと、国際情勢の行き詰まりなどでバイデンの支持率が下がり、バイデンから離れた中道票が「現実的な共和党候補」に向かう可能性はあると思われます。

問題は、現時点では共和党内の「反トランプ票」を全部まとめたとしても30%程度しかなく、58%のトランプとは大きな差があるということです。この3つの流れをまとめてこの倍近い大差を詰めていくことができるのか、当面その動きに注目しなくてはならないわけですが、とりあえず、トランプへの挑戦者としては、ニッキー・ヘイリーの存在が高まっていくと見られます。

ニューズウィーク日本版 教養としてのBL入門
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年12月23日号(12月16日発売)は「教養としてのBL入門」特集。実写ドラマのヒットで高まるBL(ボーイズラブ)人気の歴史と背景をひもとく/日米「男同士の愛」比較/権力と戦う中華BL/まずは入門10作品

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

英失業率、8─10月は5.1%へ上昇 賃金の伸び鈍

ビジネス

三菱UFJFG社長に半沢氏が昇格、銀行頭取は大沢氏

ワールド

25年度補正予算が成立=参院本会議

ビジネス

EU、35年以降もエンジン車販売を容認する制度検討
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:教養としてのBL入門
特集:教養としてのBL入門
2025年12月23日号(12/16発売)

実写ドラマのヒットで高まるBL(ボーイズラブ)人気。長きにわたるその歴史と深い背景をひもとく

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連疾患に挑む新アプローチ
  • 4
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 5
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 6
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 7
    アダルトコンテンツ制作の疑い...英女性がインドネシ…
  • 8
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 9
    「なぜ便器に?」62歳の女性が真夜中のトイレで見つ…
  • 10
    現役・東大院生! 中国出身の芸人「いぜん」は、なぜ…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出を睨み建設急ピッチ
  • 3
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 4
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の…
  • 5
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 6
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 7
    【クイズ】「100名の最も偉大な英国人」に唯一選ばれ…
  • 8
    中国軍機の「レーダー照射」は敵対的と、元イタリア…
  • 9
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 10
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story