コラム

元上司トランプに挑むヘイリーの米大統領選出馬が「天才的な一手」な訳

2023年02月15日(水)18時48分

ヘイリーはバイデン支持者にとっても恐るべき強敵  BRIDGET BENNETTーBLOOMBERG/GETTY IMAGES

<2月14日、米大統領選に立候補を表明した共和党のニッキー・ヘイリー元国連大使。元上司であるトランプに挑みつつ、たとえ予備選で負けてもトランプVSデサンティスの勝者を決める「キングメーカー」役に?>

ニッキー・ヘイリーは「勝者」のオーラを全身にまとっている。しばしば過小評価されているが、勝利をつかみ取る能力は現実離れしている。予想を裏切る成功の連続には、経験豊富な政治学者も脱帽するしかない。

出身は共和党支持の白人が多数を占め、家父長主義的な気風が色濃く残る南東部サウスカロライナ州。2010年、ヘイリーは同州で女性初というだけでなく、人種的マイノリティーとしても初の州知事に当選。4年後にも順当に再選を果たした。

外交経験は皆無だったが、トランプ前政権では国連大使に抜擢された。「軽量級」と見られていたが、退任時には最も強い印象を残した政権高官との評価を得た。トランプ前大統領がらみのスキャンダルや騒動もほぼ無傷で切り抜けた。

ただし、米史上最大の番狂わせを演じて次期大統領の座を射止めるためには、あらゆる勝者のオーラを総動員する必要がありそうだ。ヘイリーは2月14日、2024年大統領選への出馬を表明した。バイデン現大統領が正式に出馬表明する前の参戦は、有力候補では元上司で政治的後ろ盾でもあるトランプに続き2人目となる。

ヘイリーはバイデン支持者にとって恐るべき強敵だ。不可能を可能にしてきた実績に加え、彼女にはカリスマ性と有権者の共感を呼ぶ個人的ストーリーがある。

典型的な労働者階級の出というバイデンの出自は通常なら選挙で有利に働くが、インド系移民の娘が相手では、その効果も限定的だろう。10代初めから母親の小さなブティックを手伝い始め、今や有力政治家の1人となったヘイリーは、アメリカンドリームの体現者として自身を売り込むはずだ。

トランプに挑みトランプに「貸し」を作る

現時点で最も有力なシナリオは、ヘイリーは共和党大統領候補指名レースの「攪乱要因」になるというもの。好感度とアピール力を武器に、トランプ最大の脅威であるフロリダ州知事のロン・デサンティスから反トランプ票を引き剝がし、元上司の指名獲得に貢献するというのだ。

ある政治関係者は、ヘイリーの出馬宣言は天才的な一手だと私に言った。最悪でもトランプかデサンティスの下で副大統領や国務長官に起用される公算が高いという。たとえ共和党予備選で指名を勝ち取れなくても、一定の票を確保すれば「キングメーカー」になれる。デサンティス対トランプの「リベンジ・マッチ」の勝者を、自分がどちらを支持するかで決められるのだ。

もしこの試合がエスカレートして制御不能になれば(トランプは既に、デサンティスは高校教師時代に10代の少女を誘惑したと非難している)、ホワイトハウス奪還を至上命題とする共和党は白人男2人を切り捨て、大統領選の本選で勝てる最適な候補としてヘイリーに注目するかもしれない。

最新の世論調査では、1対1の直接対決ではデサンティスが45%対41%でトランプを上回るが、ヘイリーが出馬した場合、トランプが38%対35%でデサンティスを逆転。ヘイリーが11%を獲得する。この数字のとおりになれば、トランプはデサンティスの挑戦を阻止した彼女に「借り」ができる。

デサンティスが勝利する場合でも、したたかなヘイリーはおそらく適切なタイミングでデサンティス支持に切り替え、選挙で負けても政治的には勝利するユニークなポジションを手に入れるはずだ。

実際にヘイリーが大統領になる可能性はどれぐらいあるのか──それを推し量る指標の1つは、ライバルからの攻撃だ。やはり次期大統領への意欲をにじませるポンペオ前国務長官が自身の回顧録でヘイリーを猛批判したという事実は、彼女がホワイトハウスの主となる確率が一般に言われているよりもずっと高いことを示している。

プロフィール

サム・ポトリッキオ

Sam Potolicchio ジョージタウン大学教授(グローバル教育ディレクター)、ロシア国家経済・公共政策大統領アカデミー特別教授、プリンストン・レビュー誌が選ぶ「アメリカ最高の教授」の1人

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

トランプ米大統領、自身のSNSに投稿された人種差別

ビジネス

アングル:インド「高級水」市場が急成長、富裕層にブ

ビジネス

NY外為市場=ドル下落、リスク資産反発受け 円は衆

ワールド

トランプ氏、インドへの25%追加関税撤廃 ロ産石油
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプの帝国
特集:トランプの帝国
2026年2月10日号(2/ 3発売)

南北アメリカの完全支配を狙うトランプの戦略は中国を利し、世界の経済勢力図を完全に塗り替える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    がんの約4割は、日々の取り組みで「予防可能」...予防のために、絶対にしてはいけないこととは?
  • 2
    エヌビディア「一強時代」がついに終焉?割って入った「最強ライバル」の名前
  • 3
    韓国ダークツーリズムが変わる 日本統治時代から「南山」、そして「ヘル・コリア」ツアーへ
  • 4
    韓国映画『しあわせな選択』 ニューズウィーク日本…
  • 5
    【台湾侵攻は実質不可能に】中国軍粛清で習近平体制…
  • 6
    イースター島の先住民から資源を略奪、島を「生きた…
  • 7
    日経平均5万4000円台でも東京ディズニー株は低迷...…
  • 8
    【銘柄】「ソニーグループ」の株価が上がらない...業…
  • 9
    「こんなのアリ?」飛行機のファーストクラスで「巨…
  • 10
    心停止の8割は自宅で起きている──ドラマが広める危険…
  • 1
    高市積極財政にアメリカが慌てる理由
  • 2
    日本への威圧を強める中国...「レアアース依存」から脱却する道筋
  • 3
    致死率は最大75%のニパウイルスが、世界規模で感染拡大する可能性は? 感染症の専門家の見解
  • 4
    「出禁」も覚悟? ディズニーランドで緊急停止した乗…
  • 5
    米戦闘機、空母エイブラハム・リンカーンに接近した…
  • 6
    がんの約4割は、日々の取り組みで「予防可能」...予…
  • 7
    グラフが示す「米国人のトランプ離れ」の実態...最新…
  • 8
    高市首相の発言は正しかった...「対中圧力」と「揺れ…
  • 9
    エヌビディア「一強時代」がついに終焉?割って入っ…
  • 10
    エプスタインが政権中枢の情報をプーチンに流してい…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?【2025年の話題クイズ5選】
  • 2
    【クイズ】致死率50~75%...インドで感染拡大「ニパウイルス」の感染源となる動物は?
  • 3
    高市積極財政にアメリカが慌てる理由
  • 4
    セーターが消えた冬 ── 暖かさの主戦場が「インナー」…
  • 5
    中国製防空レーダーは米軍のベネズエラ攻撃に屈した─…
  • 6
    海上自衛隊が水中無人機(UUV)を導入 中国の海軍拡…
  • 7
    防衛省が「新SSM」の映像を公開、ノルウェー・コング…
  • 8
    中国で大規模な金鉱脈の発見が相次ぐ...埋蔵量は世界…
  • 9
    【クイズ】韓国を抜いて1位に...世界で最も「出生率…
  • 10
    180万トンの「リチウムごみ」を資源に...EV電池の「…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story