コラム

米共和党の「赤い波」は不発──中間選挙では全員が敗者

2022年11月10日(木)12時00分

ここからは推測になりますが、選挙戦の終盤、共和党の中枢はトランプに対して、明らかに「各州での演説回数を抑制」したようですし、例えば「2024年大統領選への出馬宣言」は「先送り」させたと言われています。共和党に追い風が吹いているのなら、それはインフレ批判、治安悪化への批判の票であり、だとしたらそうした中間無党派層に吹いている「共和党への風」を止めないように、彼等の嫌うトランプを「隠した」のだと思われますが、それはそれで合理的な判断と考えられます。

もしかしたらトランプ側は、そのような「トランプ隠し」をされたために、トランプ派が「ガッカリして投票所に行かなかった」かもしれない、トランプ本人の集票能力が100%発揮できなかった、そんな思いを抱いているかもしれません。

その一方で、それでもトランプが選挙運動に関わり、トランプの推薦した候補を全国の選挙区に大量に擁立していたのは事実です。もしかしたら、共和党の主流派は「せっかくインフレ批判で風が吹いていたのに、トランプが中途半端に動き回ったので無党派層が引いた」と思っているかもしれません。共和党に関しては、そんな構図でトランプとアンチの間で内紛が激しくなる可能性があります。

共和党内で、トランプに次いで「大統領候補への待望論」が盛り上がっているフロリダ州のロン・デサンティス知事は、今回はライバルに20%の差をつけて圧勝。大きな存在感を示しました。これまでずっと連携していたトランプは、先週末から突然激しい口調でデサンティスへの「罵詈雑言」を口にし始め、明確にライバル視を始めました。デサンティスは、このままトランプと正面衝突するのか、あるいは深謀遠慮を秘めつつ懐に飛び込むのか、今後はこの2人を軸に、予備選の前哨戦が活発化しそうです。

ここから始まる両党の予備選レース

一方の民主党では、大敗が回避されたことへの安堵が広がっていますが、政局運営が難しくなることは間違いありません。その一方で、今回の選挙と同時に行われた各社の出口調査では、「2024年にバイデンが再出馬」することに対して、50%~75%が「ノー」と答えるなど、大統領の求心力は低下しています。

選挙翌日の記者会見では、共和党との政策協議に応じつつ今後の政局運営に自信を示していたバイデンですが、仮に続投を表明しても、予備選では多くの候補の挑戦を受ける可能性があります。予備選が混戦になる中で、高齢や家族の反対を理由に、再選出馬の断念に追い込まれるかもしれません。また、ハリス副大統領も不人気が問題になっており、スムーズな「禅譲」は難しいと思われます。民主党の内部も、この中間選挙を転換点に、内部のせめぎ合いが激しくなることが予想されます。

つまり、民主、共和の両党ともに選挙という「団結の動機」がなくなり、大統領候補の予備選という形で、共和党ではトランプ派とそのアンチ、民主党では穏健派と左派の分裂が顕著になっていく可能性が濃厚です。という見方で、今回の中間選挙は「全員が敗者」ということになるのかもしれません。逃げ切ったニューヨークのホークル知事も、治安問題、難民問題、ニューヨーク市の経済低迷に関する批判は続くわけで、当選したから楽になるわけではないのです。

ニューズウィーク日本版 英語で学ぶ国際ニュース超入門
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年5月6日/13日号(4月30日発売)は「英語で学ぶ 国際ニュース超入門」特集。トランプ2.0/関税大戦争/ウクライナ和平/中国・台湾有事/北朝鮮/韓国新大統領……etc.

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

米財務長官、FRBに利下げ求める

ビジネス

アングル:日銀、柔軟な政策対応の局面 米関税の不確

ビジネス

米人員削減、4月は前月比62%減 新規採用は低迷=

ビジネス

GM、通期利益予想引き下げ 関税の影響最大50億ド
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 2
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来が来るはずだったのに...」
  • 3
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が書かれていた?
  • 4
    ポンペイ遺跡で見つかった「浴場」には、テルマエ・…
  • 5
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 6
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 7
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 8
    クルミで「大腸がんリスク」が大幅に下がる可能性...…
  • 9
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 10
    悲しみは時間薬だし、幸せは自分次第だから切り替え…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 6
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 7
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 8
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 9
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 10
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 9
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 10
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story