コラム

第2次世界大戦を防げなかった国際連盟の教訓とは

2022年04月06日(水)14時00分

機能不全の国連安保理の改革を求める声が高まっているが Andrew Kelly-REUTERS 

<第1次大戦の惨禍を受けて設立された国際連盟は、常任理事国の日本ら主要国の脱退で崩壊した>

国際連合というのは、その名も連合国(United Nations)をそのまま継承しており、第二次大戦の戦勝国が主導した国際秩序を固定化したものという理解が、一部にあるようです。確かに、米中英仏ロという5大国が、安全保障理事会の常任理事国に居座っている構成は、現在の国際社会の実情を反映しているとは言い難い面があります。

ですから、特に1997年から2006年まで10年間にわたって国連事務総長を務めたコフィー・アナン氏などが主唱して、「国連改革」の議論が始まったのは歓迎すべきと言えます。

ところで、国連改革について、特に現在進行中の危機においては、安全保障理事会の拒否権の制限という案が話題になっています。常任理事国の1つであるロシアが紛争当事国であるという今回のケースでは、国連安保理の決議でロシアの行動を制限しようとしても、ロシアが拒否権を行使するので、国連としては「何もできない」という印象を与えるからです。

確かに、現在のルールでは拒否権は絶対であり、安全保障に関する国連安保理の具体的な行動は、ロシアが反対している限りは実現しません。ですから、例えば、ウクライナのゼレンスキー大統領などが「ロシアは拒否権を悪用している」のだから、「拒否権を制限すべき」と主張するならば、一定程度の説得力を持つのは自然だと思います。

常任理事国・日本の脱退

ですが、今回の危機を教訓として、国連改革の名のもとに、安保理常任理事国の拒否権を制限するという案については、くれぐれも慎重な議論が必要と思います。それは国連の制度設計に深く関わっているからです。

この拒否権の問題は、国際連盟の教訓をふまえています。国際連盟は、第一次大戦という「人類が経験したことのない悲惨な世界大戦」の反省をもとに、2度と世界大戦を繰り返さないために組織されました。ですが、結果的に第二次大戦を阻止することはできませんでした。主要な加盟国であり、世界平和に責任を持つ理事会の常任理事国が、事もあろうに「脱退」してしまったからです。そのために、国際連盟は機能が低下して世界大戦を阻止する仲裁能力を喪失してしまいました。

脱退を宣言したのは、日本です。1933年にジュネーブにあった国際連盟の総会で、満州事変への調査報告に不満を述べた当時の日本の松岡洋右外相は、流暢な英語で「日本は十字架に架けられたキリストのようだ」などと、キリスト教国の外交官たちに喧嘩を売るような不必要な演説と共に、連盟を脱退してしまったのです。ドイツ(1935年脱退)、イタリア(1937年脱退)がこれに続きました。

現在の国際連合が、安保理常任理事国に拒否権を与えているのは、こうした「主要国の脱退による世界大戦の勃発」を再び起こさないのが目的とされています。冷戦期には、アメリカやソ連がお互いに拒否権合戦をして、国連の機能は著しく低下しましたが、少なくとも米ソが直接対決する世界大戦は回避されました。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

中ロ、一方的制裁への共同対応表明 習主席がロ首相と

ワールド

ドイツ、2026年のウクライナ支援を30億ユーロ増

ワールド

AI端半導体「ブラックウェル」対中販売、技術進化な

ワールド

チェイニー元米副大統領が死去、84歳 イラク侵攻主
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:高市早苗研究
特集:高市早苗研究
2025年11月 4日/2025年11月11日号(10/28発売)

課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 2
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 3
    「あなたが着ている制服を...」 乗客が客室乗務員に「非常識すぎる」要求...CAが取った行動が話題に
  • 4
    「日本のあの観光地」が世界2位...エクスペディア「…
  • 5
    これをすれば「安定した子供」に育つ?...児童心理学…
  • 6
    高市首相に注がれる冷たい視線...昔ながらのタカ派で…
  • 7
    虹に「極限まで近づく」とどう見える?...小型機パイ…
  • 8
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 9
    【HTV-X】7つのキーワードで知る、日本製新型宇宙ス…
  • 10
    9歳女児が行方不明...失踪直前、防犯カメラに映った…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読み方は?
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    9歳女児が行方不明...失踪直前、防犯カメラに映った…
  • 7
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 8
    女性の後を毎晩つけてくるストーカー...1週間後、雨…
  • 9
    「日本のあの観光地」が世界2位...エクスペディア「…
  • 10
    だまされやすい詐欺メールTOP3を専門家が解説
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になり…
  • 5
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 6
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 7
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 8
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 9
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 10
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story