コラム

トランプvsバイデン、それぞれが抱える選挙戦の課題

2020年07月07日(火)19時00分

一方のバイデン陣営については、何といっても経済政策が心配です。現在のアメリカ経済は3月の株安以降、株価は持ち直していますし、雇用に関しても失業率が最悪だった4月の14.7%から5月は13.3%、6月は11.1%と改善が見られます。

確かにITや金融などの知的産業については、コロナによる影響は軽微だということは言えます。ですからNASDAQなどは高値になっています。そうではあるのですが、一方で運輸やサービス産業は壊滅的であり、今後も見通しは暗い中で運転資金枯渇の可能性が取り沙汰されています。また自動車、エネルギーなどアメリカの基幹産業も大きく傷ついています。

そんななか、トランプ政権は交付金、休業補償、失業保険の上乗せなどでジャブジャブ金を市中に回してきました。ですが、そうしたバラマキも7月で一段落します。その後の、特に9月以降の経済がどうなるかは、全く予断を許さない状況です。

では、バイデン候補は「トランプよりも左翼寄り」ということで、より強めの財政出動を主張しているのかというと、必ずしもそうではありません。こうした経済危機の渦中において「経済はそうは簡単には良くならない。2年から3年はかかる」とか「トランプの行った減税は全て見直す」というようなことをバイデン候補は割と気軽に口にするのです。

対中関係をオバマ時代には戻せない

確かにトランプによる暴言の数々や、無茶な移民排斥などは、政権が変わったら全てを元に戻すことでいいかもしれません。ですが、経済は生き物であり、仮に正論であっても実際のアメリカ経済、世界経済を殺してしまっては本末転倒です。

バイデン陣営について言えば、外交にも不安があります。年初に外交誌「フォーリン・アフェアーズ」に発表した論文で、バイデン候補は自分が大統領になったら、「自由陣営のG30サミット」を行って自由と民主主義の理念を再確認すると述べています。間違っているとは思いませんが、この4年間に世界は確実に変化しており、対中関係一つとってもオバマ時代に戻せばいいというわけではなく、また戻そうとしても戻せない状況があります。また、その100%がトランプの責任でもありません。

バイデン氏は、しっかりした政策パッケージを発表して、党内の中道派と左派を結集して、民主党が一丸となって選挙戦に突入できるようにしなくてはなりません。そして、その作業は決して簡単ではないし、またうまく行っているようにも見えません。

とにかく、トランプ陣営もバイデン陣営も、これから8月後半に予定されているそれぞれの党大会まで、政策とメッセージをしっかり練り上げて、一本化することが求められているのだと思います。

【話題の記事】
・東京都、新型コロナウイルス新規感染111人 4日連続3桁台
・巨大クルーズ船の密室で横行するレイプ
・新型コロナ、血液型によって重症化に差が出るとの研究報告 リスクの高い血液型は?
・韓国、日本製品不買運動はどこへ? ニンテンドー「どうぶつの森」大ヒットが示すご都合主義.

20200714issue_cover150.jpg
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2020年7月14日号(7月7日発売)は「香港の挽歌」特集。もう誰も共産党を止められないのか――。国家安全法制で香港は終わり? 中国の次の狙いと民主化を待つ運命は。PLUS 民主化デモ、ある過激派の告白。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

バーゼル委、銀行監督規則を強化 気候変動関連リスク

ワールド

韓国財政、もはや格付けの強みではない 債務増抑制を

ワールド

米最高裁、トランプ氏免責巡り一定範囲の適用に理解 

ワールド

岸田首相、5月1─6日に仏・南米を歴訪
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された米女優、「過激衣装」写真での切り返しに称賛集まる

  • 3

    中国の最新鋭ステルス爆撃機H20は「恐れるに足らず」──米国防総省

  • 4

    今だからこそ観るべき? インバウンドで増えるK-POP…

  • 5

    未婚中高年男性の死亡率は、既婚男性の2.8倍も高い

  • 6

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 7

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 8

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 9

    心を穏やかに保つ禅の教え 「世界が尊敬する日本人100…

  • 10

    「鳥山明ワールド」は永遠に...世界を魅了した漫画家…

  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた「身体改造」の実態...出土した「遺骨」で初の発見

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 6

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 7

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 8

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 9

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 10

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の瞬間映像をウクライナ軍が公開...ドネツク州で激戦続く

  • 4

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 5

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 6

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこ…

  • 7

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 8

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 9

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 10

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story