コラム

トランプvsバイデン、それぞれが抱える選挙戦の課題

2020年07月07日(火)19時00分

バイデンの心配な点は何と言っても経済 Kevin Lamarque-REUTERS

<選挙戦が近づいてますますひどくなるトランプの「二枚舌」と、経済、外交はじめ重要項目の政策方針が未だに定まらないバイデン>

秋の米大統領選を前に、夏の選挙戦が本格化しています。例えば、トランプ大統領は7月4日の独立記念日を祝うとして、サウスダコタ州にある、歴代大統領の巨大な彫刻が掘られたラシュモア山を訪れてイベントを行いました。一見すると国の祝賀行事に見えますが、これも選挙運動に他なりません。

現時点では、共和党の地盤である保守州(レッドステート)を中心にコロナ危機が深刻化していることを受けて、大統領の勢いは退潮気味です。ですが、投票日まで4カ月を切ったとはいえ、これからの政局は何が起きるか分かりません。

とりあえず夏の選挙戦について、トランプ陣営とバイデン陣営の課題を比較したいと思います。

まずトランプ陣営ですが、最大の課題は中道票あるいは無党派層にどこまで浸透できるかです。陣営としても、この点は気になっているようで、ここ数週間、大統領は「いつもの二枚舌」を徹底するようになってきました。「二枚舌」というのは、コア支持者向けの「過激な本音」と、中間層にも受け入れられる「常識的な言動」を場所によって使い分けるというスタイルで、前回2016年の選挙で当選して以来、要所要所で見られた姿勢です。

共和党の挙党体制が崩れかねない

例えば、前回の選挙戦では「ヒラリーを獄につなげ(Lock Her Up!)」などという無茶な過激路線を展開していたわけですが、当選を確実にした際の勝利宣言では「国の団結」を訴えて世論に安心感を与えたのでした。では、以降のトランプは常識的な大統領になったのかというと決してそうではなく、定期的に「コア支持層」に向けた「過激トーク」を行ってきたわけです。

この夏の選挙戦ということでは、その2つの顔の乖離が激しくなっているようです。例えば、南部や中西部における感染拡大を受けて、中間層向けには「マスクをするのは良いことだ」などと殊勝なことを言っていましたが、コア支持者向けの演説になると「コロナは99%は無害」などという放言に走っています。

この夏の大きな課題となっている人種差別問題についても、一般の有権者向けの演説では終始「平和的なデモは支持する」と言い続けていますし、大統領令として署名した警察改革案では「不祥事を起こした警官のデータベース登録、首絞め行為などの禁止」を盛り込んだ「意外とマトモな改善提案」もしています。ですが、その一方で、自動車レース「NASCAR」が観客席における「南部連邦旗を禁止」した措置に不満を述べるなどコア支持者向けの過激な発言も止まりません。

とにかく、本音と建前と言いますか、一般向けとコア支持層向けに全く別のメッセージを出し続け、しかもその差がドンドン離れていっているのは危険な兆候です。下手をすると、共和党の挙党態勢が崩れる危険があるからです。

<関連記事:急速に勢いを失いつつあるトランプ、大統領選の潮目は変わったのか?

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

岸田首相、「グローバルサウスと連携」 外遊の成果強

ビジネス

アングル:閑古鳥鳴く香港の商店、観光客減と本土への

ビジネス

アングル:中国減速、高級大手は内製化 岐路に立つイ

ワールド

米、原発燃料で「脱ロシア依存」 国内生産体制整備へ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    外国人労働者がいないと経済が回らないのだが...... 今も厳しい差別、雇用許可制20年目の韓国

  • 2

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受ける瞬間の映像...クラスター弾炸裂で「逃げ場なし」の恐怖

  • 3

    こ、この顔は...コートニー・カーダシアンの息子、元カレ「超スター歌手」に激似で「もしや父親は...」と話題に

  • 4

    翼が生えた「天使」のような形に、トゲだらけの体表.…

  • 5

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 6

    単独取材:岸田首相、本誌に語ったGDP「4位転落」日…

  • 7

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 8

    ウクライナがモスクワの空港で「放火」工作を実行す…

  • 9

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS…

  • 10

    マフィアに狙われたオランダ王女が「スペイン極秘留…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる4択クイズ

  • 3

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 4

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 5

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 6

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS…

  • 7

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 8

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 9

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 10

    メーガン妃の「限定いちごジャム」を贈られた「問題…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 6

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 7

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

  • 10

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story