コラム

選挙戦を再開させたトランプ、その「第一声」でスベる

2020年06月23日(火)16時30分

1つ目は、良くも悪くも抑制が効いていたという点です。過去のトランプは、例えば当選の勝利宣言であるとか、白人至上主義者による暴力事件が起きたときなどがそうですが、まずプロンプターを使って側近の原稿を読むスタイルでコメントを出すときは「下品な言い方や、対立を煽る表現は抑制して、中道的、そして国内融和を志向した内容を語る」ことが多いです。

これに対して、間隔をあまり空けずに「ぶら下がり」式の会見や、選挙集会ではそれこそ反対派が激怒するような「ホンネ丸出し」の内容でコア支持者の歓心を買うようにしていました。

つまり本音と建前を分かりやすく使い分けていたのです。この間のトランプは、白人警官の暴力で殺されたフロイド氏の家族に弔意を示したり、平和的なデモへの賛同を口にしたり、建前の世界を中心に動いていました。そんな中で、「この夏最初のラリー」となれば「ホンネの毒舌満開」というパターンになる順番と思われていました。

ですが、形式だけはベランメエの放談口調で演説を進行させるなかで、目立った「過激発言」は出てこなかったのです。新型コロナウイルスに関して、中国を批判しながら「カンフー」とか「チャイナ・ウィルス」などと言った部分、会場の外で行われたBLMデモに関して「悪いやつらだ」と言った部分、それから「検査を増やすと患者が増えるので検査を減らせ」という部分......露骨な放談というのはそのくらいで、全体的に極めて穏健な内容でした。

結果として、演説の全体は2時間近くに及んだものの、散漫な印象を与えたように思います。特に、陸軍大学(ウェストポイント)の卒業式に列席した際に、600回も敬礼をさせられて疲れたというエピソードの部分では、ダラダラと10分以上喋ったのですが、漫談としても面白くなく、また体調不良報道への言い訳にしては苦しく、シャープさに欠けていました。

疲労感丸出しの姿を撮られる

2つ目は、体制に緩みが出ているという点です。まずイベントの開催前に、すでにイベントスタッフとSPの計6人にCPR陽性者が出ていたというのが気になります。トランプは、ここ数カ月「マスクを徹底的に拒否」する一方で、出張先でも自分は「ノーマスクゾーン」に入って万全を期していたのですが、その管理体制に一種の変調が起きているような印象があります。

また、この20日のイベント終了後、トランプは深夜にエアフォースワンとヘリを乗り継いでホワイトハウスに戻っていますが、その際に真っ赤なタイを外してトボトボ歩く、疲労感丸出しの大統領の姿を写真に撮られています。これなども、体制に緩みが出ている証拠だと思います。

<参考記事:解任されたボルトンがトランプに反撃 暴露本の破壊力は大統領選を左右する?

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

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