コラム

選挙戦を再開させたトランプ、その「第一声」でスベる

2020年06月23日(火)16時30分

20日にタルサで開催されたトランプのラリー会場では空席が目立った Leah Millis-REUTERS

<いつもなら大規模集会「ラリー」で過激発言を連発するところだが、黒人差別抗議デモが全米に広がるなかで毒舌は抑制気味>

6月20日(土)、トランプ大統領はオクラホマ州タルサで、いわゆる「ラリー形式の選挙集会」を行いました。2期目を目指す夏の選挙戦における事実上のスタート「第一声」となる動きですが、事前から当日にかけて様々な騒動が続く、異常なイベントとなりました。

まず、問題になったのが場所とタイミングの選択でした。コロナ危機で中断を余儀なくされた選挙戦の再開を、中部大平原のオクラホマ州で開催するというのは、大統領の自由ですが、最初の計画通り6月19日にタルサで行うというのは、大いに物議を醸したのです。

まず6月19日というのは、リンカーンが南北戦争中に宣言した奴隷解放が、テキサス州に適用されることで、実質的に認知がされたのを祝う「ジューンティーンス」という記念日です。一方で、タルサという土地は、1921年にこの地において経済力を築きつつあった多数の黒人たちが虐殺された「タルサ人種虐殺」事件の記憶を抱えた場所でした。

ということは、6月19日に実施するとなると、場所と日付の相乗効果により「白人至上主義者」が人種差別反対デモへのカウンターとして集結してしまい、最悪の場合には2017年の夏に起きたシャーロッツビル事件のような暴力を誘発する危険もある、そうした指摘がされていました。

開催日程は1日繰り延べ

そこで大統領周辺は日程の1日繰延を余儀なくされたのです。一方で、「選挙集会は立錐の余地のない満員状態で行いたい」とする大統領側と、密集を避けたいという市当局の綱引きなどもありました。ですが、結果的に大統領は定員1万9000人のアリーナで実施し、しかもトランプ派ですから参加者の多くはマスクを着用しない状態でイベントは強行されたのでした。

その6月20日の「ラリー」ですが、2015年に選挙戦をスタートして以来、無数に実施されてきたいわば「ドナルド・トランプ・ショー」とでも言えるものです。会場には「MAGAキャップ」つまり、トランプのスローガンである "Make America Great Again" という標語を記した真っ赤な野球帽をかぶった支持者、あるいはバナーや国旗を掲げた支持者で一杯になり、異様な熱気に包まれるというのが通例でした。

それでは、今回の「2020年夏の選挙戦キックオフ」はどうだったのかというと、3つ指摘できると思います。

<参考記事:空席だらけのトランプ選挙集会は落ち目のしるし?

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

BofAのCEO、近い将来に退任せずと表明

ワールド

トランプ氏、反ファシスト運動「アンティファ」をテロ

ビジネス

家計の金融資産、6月末は2239兆円で最高更新 株

ワールド

アブダビ国営石油主導連合、豪サントスへの187億ド
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:世界が尊敬する日本の小説36
特集:世界が尊敬する日本の小説36
2025年9月16日/2025年9月23日号(9/ 9発売)

優れた翻訳を味方に人気と評価が急上昇中。21世紀に起きた世界文学の大変化とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「日本を見習え!」米セブンイレブンが刷新を発表、日本では定番商品「天国のようなアレ」を販売へ
  • 2
    中国は「アメリカなしでも繁栄できる」と豪語するが...最新経済統計が示す、中国の「虚勢」の実態
  • 3
    1年で1000万人が死亡の可能性...迫る「スーパーバグ」感染爆発に対抗できる「100年前に忘れられた」治療法とは?
  • 4
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 5
    燃え上がる「ロシア最大級の製油所」...ウクライナ軍…
  • 6
    【クイズ】世界で最も「リラックスできる都市」が発…
  • 7
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 8
    中国山東省の住民が、「軍のミサイルが謎の物体を撃…
  • 9
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 10
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 1
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 2
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれば当然」の理由...再開発ブーム終焉で起きること
  • 3
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサイルが命中、米政府「機密扱い」の衝撃映像が公開に
  • 4
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 5
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 6
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 7
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 8
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 9
    「なんて無駄」「空飛ぶ宮殿...」パリス・ヒルトン、…
  • 10
    観光客によるヒグマへの餌付けで凶暴化...74歳女性が…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 4
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 5
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 6
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 7
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 8
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 9
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 10
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story