コラム

変化が遅い米大リーグ、時代に取り残される危機感はあるのか?

2020年06月11日(木)16時40分

NASCARには、確かに保守派のファンが多いのは事実で、この発表に対する反発も出ています。ですが、NFLの行動と同様に、NASCARのこの決定も、勇気あるもの、そして2020年という時代の常識に追いつこうとしているものだとして、全国から称賛の声が上がっています。

問題は野球のMLBです。ただでさえ、赤字前提の無観客試合に消極的なオーナーたちと、2020年のシーズンに満額近いサラリーを主張していた選手組合の対立を、ファンの多くは不愉快に思っていました。これに加えて、これだけアメリカの様々な地域や業種が、人種差別の問題において変化への一歩を踏み出そうとしているのに、オピニオンリーダーになる選手も少なければ、コミッショナーの動きも「型通りのメッセージ」だけ、これではMLBブランドはジリ貧という批判が増えているのです。

その背景には、1990年代以降、優秀な黒人選手が野球ではなく、バスケやフットボールに流れてしまい、アフリカ系のファンも減っているという問題があるかもしれません。これに加えて、リーマン・ショックの直前まで一種のバブル景気に踊った野球界が、その後、変革ができずに時代に急速に取り残されているということもあると思います。

何よりも、顔の見えるスター選手、つまりメッセージを発信できて、同時に選手としても最高のパフォーマンスで楽しませてくれるようなスーパースターの育成ができていないというのが問題だと思います。2009年以降、観客動員には明らかな鈍りが生じており、チケットの値崩れも起きています。

マンフレッド・コミッショナーはコロナ危機で延期されている今シーズンについては、89試合制のシーズンを実施して、ポストシーズン戦も行うと強気です。ですが、仮に実施できたとしてシーズンを盛り上げることができるのか? それ以前にそもそも開幕ができるのか、MLBは大きな岐路に立っていると思います。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

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