コラム

高級ホテル50軒構想、問題なのは運営ノウハウの外資頼み

2019年12月10日(火)17時30分

日本でも独自の哲学とノウハウを持った企業が出てきている(画像は北海道の自然の中に建設された星野リゾート トマム) Cheng Feng Chiang-iStock.

<大切なのは、日本の観光産業トータルで「5つ星クラス」の運営、つまり企画とサービス提供のノウハウをしっかり確立すること>

一部の報道によれば日本政府は「高級ホテル50軒」を新設するために公費支援を行うようです。

菅官房長官は12月7日、訪日外国人の受け入れ拡大に向けて「各地に世界レベルのホテルを50カ所程度新設することを目指す」と述べ、具体的には外国人富裕層向けの「スイートルームを多く備えたホテルが日本では不足」しているので「ホテル整備に財政投融資を活用し、日本政策投資銀行による資金援助などを行う」考えを示しました。

このニュースを受けて、一部にはバブル期に見事に失敗した「内需拡大のためのリゾート振興」と比較し、50軒もの高級ホテルは「供給過剰」になるという懸念もあるようです。

この点に関しては、私はあまり心配していません。今回の「高級ホテル」というのは、いわゆる「5つ星クラス」、つまりリッツ・カールトン、セント・レジス、ペニンシュラ、フォーシーズンズといった超高級チェーンか、その少し上のレベルを指すと考えられます。

このクラスでは、まず現在の日本で稼働しているホテルは極めて限られています。また、集客ということでは、限られた訪日外国人マーケットを食い合うということにはならないと思います。

まず、リゾートホテルということでは、ライバルは、プーケット、バリ、フィジー、セントーサ(シンガポール)などになります。富裕層にとっては次の旅行先を決めるにあたってホテルの好みというのは重要なポイントになります。

アジア圏「5つ星」市場は極めて大きい

どうしてかというと、基本的にリゾートホテルに1泊だけでなく、連泊して滞在を楽しむのが普通だからです。つまり、ホテル自体が旅の主要な目的になるわけで、そうなると日本の「5つ星リゾート」のライバルは、日本の既成のリゾートではなく、アジア広域圏が対象になるわけです。市場は極めて大きく、飽和ということは考えられません。

都市型の場合は、都市におけるエンタメ、グルメやショッピングを組み合わせた長期滞在というケースもあるでしょう。ですが、都市の場合はなんといっても「本来の意味でのIR(統合型リゾート)」、つまり見本市や国際会議がメインとなって、そこに出張ついでに週末は滞在して楽しむというニーズがあるわけです。

こちらの場合も、そうした見本市や国際会議ということでのライバルは、上海、香港、シンガポール、バンコクなどになります。ここでも飽和ということはありません。

では、今回の政府の方針、つまり「50軒の高級ホテル」が正しいのかと言うと、そうは思えません。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

アングル:「豪華装備」競う中国EVメーカー、西側と

ビジネス

NY外為市場=ドルが158円台乗せ、日銀の現状維持

ビジネス

米国株式市場=上昇、大型グロース株高い

ビジネス

米PCE価格指数、インフレ率の緩やかな上昇示す 個
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された米女優、「過激衣装」写真での切り返しに称賛集まる

  • 4

    中国の最新鋭ステルス爆撃機H20は「恐れるに足らず」…

  • 5

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 6

    アカデミー賞監督の「英語スピーチ格差」を考える

  • 7

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 8

    19世紀イタリア、全世界を巻き込んだ論争『エドガル…

  • 9

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 10

    大谷選手は被害者だけど「失格」...日本人の弱点は「…

  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた「身体改造」の実態...出土した「遺骨」で初の発見

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 8

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミ…

  • 9

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 10

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の瞬間映像をウクライナ軍が公開...ドネツク州で激戦続く

  • 3

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈する動画...「吹き飛ばされた」と遺族(ロシア報道)

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 6

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 10

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story