コラム

桜田大臣の辞任問題に関する3つの違和感

2019年04月11日(木)16時00分

問題の根っこは、日本社会独特の組織風土にありそう Issei Kato-REUTERS

<安倍政権がピリピリしているのは、世論の「長期政権への飽き」を感じているから>

桜田義孝オリンピック・パラリンピック担当大臣は、4月10日に行われた高橋比奈子衆院議員(比例東北ブロック)のパーティーにおいて、「復興以上に大事なのは、高橋さんだ。よろしくお願いする」と発言していました。多くの失言を繰り返してきた同氏ですが、さすがに今回の発言は悪質であり、即刻更迭ということになりました。

この人事ですが、言語についてのスキルが低いにしても程度問題で、確かに呆れて物が言えないレベルと思います。言語を使えないということは、行政スキルがないということですから、大臣という職責を全うするのは難しく、更迭というのは当然の判断と思います。

それはそうなのですが、桜田氏が言葉を操れないのは以前から分かっていたことで、今回改めて同氏を叩いても、社会的に意味があるとは思えません。それよりも、この「事件」について、一歩引いて見てみると、何点か違和感を覚えざるを得ないように思います。

まず、安倍政権の「任命責任を問う」という「いつもの批判」があります。ですが、総理にしても「桜田氏が適任だとか、素晴らしい行政スキルがある」という判断で、このポストに据えたわけではないと思います。仮にそうなら、それこそ「人を見る目がない」訳で、総理として心配な状況になります。

問題はそうではないということです。違和感の第一は、こうした人事が起きる風土の問題です。今回の問題ですが、背景には長期政権になると積み残しの閣僚候補にポストを配らないと、党内の力学でしっぺ返しを食らうというシステムがあるわけです。閣僚に推薦している派閥の中でも、当選回数に配慮して閣僚に推薦しないと、文句を言われて困るとか、そうした事情も推察されます。

全く良いことではありません。そこで心配になるのは、企業にも似たような話があると思われることです。能力はない、でもここで本部長にしておかないと、社内で文句を言って面倒だ、というような理由で無能・無知な管理職が降ってくるということは良くあるわけです。その無能な管理職にブリーフィングをしなくてはならない専門職や中間管理職は、一気にブラックな世界に叩き込まれるわけです。

そう考えると、この問題の根というのは、日本社会独特の組織風土にありそうです。そう考えると、今回の事件は全く笑えない話であり、単に「桜田叩き」をしていれば済む話ではないと思います。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ソロモン諸島の地方選、中国批判の前州首相が再選

ワールド

韓国首相、医学部定員増計画の調整表明 混乱収拾目指

ワールド

イスラエルがイラン攻撃と関係筋、イスファハン上空に

ワールド

ガザで子どもの遺体抱く女性、世界報道写真大賞 ロイ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:老人極貧社会 韓国
特集:老人極貧社会 韓国
2024年4月23日号(4/16発売)

地下鉄宅配に古紙回収......繁栄から取り残され、韓国のシニア層は貧困にあえいでいる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    止まらぬ金価格の史上最高値の裏側に「中国のドル離れ」外貨準備のうち、金が約4%を占める

  • 3

    「毛むくじゃら乳首ブラ」「縫った女性器パンツ」の衝撃...米女優の過激衣装に「冗談でもあり得ない」と怒りの声

  • 4

    中国のロシア専門家が「それでも最後はロシアが負け…

  • 5

    価値は疑わしくコストは膨大...偉大なるリニア計画っ…

  • 6

    中ロ「無限の協力関係」のウラで、中国の密かな侵略…

  • 7

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 8

    休日に全く食事を取らない(取れない)人が過去25年…

  • 9

    「イスラエルに300発撃って戦果はほぼゼロ」をイラン…

  • 10

    日本の護衛艦「かが」空母化は「本来の役割を変える…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 3

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体は

  • 4

    犬に覚せい剤を打って捨てた飼い主に怒りが広がる...…

  • 5

    攻撃と迎撃の区別もつかない?──イランの数百の無人…

  • 6

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 7

    アインシュタインはオッペンハイマーを「愚か者」と…

  • 8

    天才・大谷翔平の足を引っ張った、ダメダメ過ぎる「無…

  • 9

    帰宅した女性が目撃したのは、ヘビが「愛猫」の首を…

  • 10

    ハリー・ポッター原作者ローリング、「許すとは限ら…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

  • 10

    浴室で虫を発見、よく見てみると...男性が思わず悲鳴…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story