コラム

北方領土が「第二次大戦でロシア領になった」というロシアの主張は大間違い

2019年01月17日(木)19時00分

いずれにしても、日ソ中立条約があり和平の仲介を依頼していた以上は、第二次大戦における日ソは友好国でこそあれ、互いに交戦国ではありませんでした。ですから、日本としては、独ソ戦の被害に対する懲罰として領土割譲要求をされても、受け入れる根拠はないのです。

それどころか、1945年の8月15日に日本がポツダム宣言を受諾し(連合国側への通告は14日)、陸海軍の無条件降伏を行った、つまり日本としては第二次大戦が終わったと認識した後で、ソ連は南樺太と千島の占領という軍事作戦を敢行しました。(満州方面では8月9日より戦闘開始)これは日本側からみれば、第二次大戦の一部とはみなせない、一方的なものであったと言えます。

その後、1956年には鳩山一郎内閣において、河野一郎農林大臣(現在の河野太郎外相の祖父)が対ソ交渉を行い、日ソ共同宣言に合意して日ソの国交が回復しています。この日ソ共同宣言では「戦争状態の終結」が合意されていますが、日本としては、この戦争状態の終結というのが「第二次大戦」だということは認めていません。あくまで日ソ中立条約が有効であるにも関わらず一方的に行われた戦闘行為であり、それによって発生した対立という考え方を取っています。

このように、ロシアの言う「第二次大戦の結果として南千島がロシアのものになった」というストーリーは、二重三重に根拠が崩れていますし、日本としてそのような主張は一度も認めたことはありません。

では、プーチン政権は「大変な悪意を込めて」こうした主張をしているのかというと、それも違うと思います。あくまで交渉のカード、言葉のゲームとして持ち出しているのであって、むしろ堂々と否定することで対等の舌戦、論理戦に持ち込めばいいのではないかと思われます。

【お知らせ】ニューズウィーク日本版メルマガのご登録を!
気になる北朝鮮問題の動向から英国ロイヤルファミリーの話題まで、世界の動きを
ウイークデーの朝にお届けします。
ご登録(無料)はこちらから=>>

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

FBI、民主6議員に聴取要請 軍に「違法命令」拒否

ビジネス

米HPが3年間で最大6000人削減へ、1株利益見通

ビジネス

米財政赤字、10月は2840億ドルに拡大 関税収入

ビジネス

中国アリババ、7─9月期は増収減益 配送サービス拡
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ガザの叫びを聞け
特集:ガザの叫びを聞け
2025年12月 2日号(11/26発売)

「天井なき監獄」を生きるパレスチナ自治区ガザの若者たちが世界に向けて発信した10年の記録

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるようになる!筋トレよりもずっと効果的な「たった30秒の体操」〈注目記事〉
  • 2
    【銘柄】イオンの株価が2倍に。かつての優待株はなぜ成長株へ転生できたのか
  • 3
    老後資金は「ためる」より「使う」へ──50代からの後悔しない人生後半のマネープラン
  • 4
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 5
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 6
    放置されていた、恐竜の「ゲロ」の化石...そこに眠っ…
  • 7
    マムダニの次は「この男」?...イケメンすぎる「ケネ…
  • 8
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワ…
  • 9
    使っていたら変更を! 「使用頻度の高いパスワード」…
  • 10
    トランプの脅威から祖国を守るため、「環境派」の顔…
  • 1
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 2
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判殺到、そもそも「実写化が早すぎる」との声も
  • 3
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるようになる!筋トレよりもずっと効果的な「たった30秒の体操」〈注目記事〉
  • 4
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    マムダニの次は「この男」?...イケメンすぎる「ケネ…
  • 7
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワ…
  • 8
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 9
    海外の空港でトイレに入った女性が見た、驚きの「ナ…
  • 10
    【銘柄】イオンの株価が2倍に。かつての優待株はなぜ…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 6
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 7
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦…
  • 8
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 9
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 10
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story