コラム

米朝首脳会談を前に、日々綱渡りのトランプ政権

2018年03月15日(木)15時45分

国務省というのは、日本で言えば外務省であり、ワシントンの本省を中心に全世界に大使館や領事館などを擁して外交・領事業務を行なっている巨大組織です。その国務省は、現在十分に機能を発揮できていません。アメリカの中央官庁ですから、上位の管理職ポジションは政治任用、つまり政権交代に伴って今回の場合は共和党系の人材が登用されるはずなのですが、「トランプ政権の極端な外交方針」を嫌って「一流の人材」が任用できていないのです。そこで、多くのポジションが空席となる中で、中堅の官僚が「代理・代行」として管理職の機能を担っていたりします。

このように、機能が十分に発揮できない一方で、リベラルな中堅が管理職の機能を代理していることもあるようです。全体として、トランプ政権の方向性よりは常識的であり、相手国との関係でいえばこれまでの経緯を踏まえて良好な関係を志向することになります。そうした国務省の方向性なり、現状を代弁していたのがティラーソンであり、それが解任されたことは、ホワイトハウスと国務省の関係が異常な状態になっていることも示唆しています。

このような状態で、トランプ政権としては「何としても11月の中間選挙で勝利したい」という執念にも似た思いを抱えています、そのために日々の政局をにらみながら「起死回生」を狙っている側面があります。なんと言っても、中間選挙での敗北は、そのまま大統領弾劾という事態に直結するからです。これまで下院については、共和党が圧倒的に優勢と言われていましたが、今回の「ペンシルベニア18区」での苦戦は、下院についても危機感を持たねばならないことを突きつけた格好になりました。

今回の「米朝首脳会談に応じる」というトランプ大統領の発表は、こうした政治状況を受けた中での「ある種のギャンブル」の側面も持っています。これは大変に危険なことです。例えば、大統領の「コアの支持者」の発想からすれば、あるいは大統領が選挙戦の時から言い続けたことを踏まえるのであれば、「米本土に届く核ミサイルの脅威を除去した」その代わりに「金のかかる在韓米軍駐留もやめることにした」などという「アメリカ・ファースト」的な判断が誘発されてしまう可能性もあります。そのような判断が安易に下されると、東アジアの地政学は激変します。

その点で、安倍総理が訪米も視野に入れつつ、トランプ政権との調整に動いているのは当然のことと思われます。この点に関しては、田中真紀子氏が「森友問題から逃げるために訪米するのか」といった批判をしていたそうですが、そんなことを言っている場合ではないのです。安倍総理にしても、政府内に非があることは否定できないので国民には誠実な説明を心がけつつ、とにかくトランプ政権との調整に全力を傾けて欲しいと思います。

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プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

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