コラム

トランプ政権の暴露本が、ここまで話題になる理由

2018年01月09日(火)14時20分

3番目ですが、何と言っても発売前に内容の一部が報じられ始め、バノンの放言があるとか、ホワイトハウスの生々しい内幕が書かれていると報じられた際に、当のホワイトハウス、そしてトランプ大統領本人が「激しく反発」してしまったということがあります。ウルフは5日以降に、NBCテレビの「トゥデー」をはじめとするテレビ番組に登場していますが、「とにかくホワイトハウスが右往左往しているのは、内容が図星だということの証明」だということで自信満々という感じでした。

特に、ウルフ自身が「企画の当初は全面的にホワイトハウスが協力していた」と証言している一方で、トランプ大統領以下の政権メンバーが「会ったこともない」とか「書いてあることは全部ウソ」だという一本調子の否定戦術に出ていることは、完全に逆効果になっています。

4番目に、一方のトランプ大統領の姿勢が年明け以降、どうにも「しっかりしていない」という問題があります。大統領は、2017年末には、賛否両論はあるにしても画期的な「税制改正」を可決成立させています。ですから、政治的には大きな成果を誇ることはできたはずです。その勢いで、念頭には「テレビ談話」でも発表して、「さらに全国へのインフラ投資を行う、しかも半分以上は民間に出資させる」とブチ上げて、11月の中間選挙へ向けて勢いを付けることが出来たはずです。

ですが、その大統領は年初に「パキスタンの悪口」で仕事始めをしたかと思うと、この『炎と怒り』出版への反発に忙しくなり、「実績を上げ始めた大統領」というイメージ作りのチャンスを完全に逸してしまっています。8日には遊説に出てテネシー州のナッシュビルで農業従事者の会合で「私に投票するチャンスがあったというのは、大変な特権なのだから感謝して欲しい」という「自信過剰?」とも思える不思議なコメントをするなど、全体的に、どこか「ズレた」な感じなのです。

もちろん本書が契機となって一気に政権が崩壊するということは考えにくいのですが、この「暴露本」の登場が、年明けのトランプ政権を意外なほどに揺さぶっているのは事実です。


ニューズウィーク日本版のおすすめ記事をLINEでチェック!

linecampaign.png

【お知らせ】ニューズウィーク日本版メルマガのご登録を!
気になる北朝鮮問題の動向から英国ロイヤルファミリーの話題まで、世界の動きを
ウイークデーの朝にお届けします。
ご登録(無料)はこちらから=>>

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

米国株式市場=主要3指数が連日最高値、米中貿易摩擦

ワールド

ハマスが人質遺体1体を返還、イスラエルが受領を確認

ビジネス

NY外為市場=ドル軟調、米中懸念後退でリスク選好 

ワールド

UBS、米国で銀行免許を申請 実現ならスイス銀とし
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:高市早苗研究
特集:高市早苗研究
2025年11月 4日/2025年11月11日号(10/28発売)

課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 2
    庭掃除の直後の「信じられない光景」に、家主は大ショック...ネットでは「ラッキーでは?」の声
  • 3
    「平均47秒」ヒトの集中力は過去20年で半減以下になっていた...「脳が壊れた」説に専門家の見解は?
  • 4
    熊本、東京、千葉...で相次ぐ懸念 「土地の買収=水…
  • 5
    「信じられない...」レストランで泣いている女性の元…
  • 6
    中国のレアアース輸出規制の発動控え、大慌てになっ…
  • 7
    「宇宙人の乗り物」が太陽系内に...? Xデーは10月2…
  • 8
    シンガポール、南シナ海の防衛強化へ自国建造の多任…
  • 9
    中国レアアース輸出規制強化...代替調達先に浮上した…
  • 10
    「死んだゴキブリの上に...」新居に引っ越してきた住…
  • 1
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 2
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 3
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
  • 4
    中国レアアース輸出規制強化...代替調達先に浮上した…
  • 5
    超大物俳優、地下鉄移動も「完璧な溶け込み具合」...…
  • 6
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 7
    熊本、東京、千葉...で相次ぐ懸念 「土地の買収=水…
  • 8
    報じられなかった中国人の「美談」
  • 9
    【2025年最新版】世界航空戦力TOP3...アメリカ・ロシ…
  • 10
    シンガポール、南シナ海の防衛強化へ自国建造の多任…
  • 1
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 2
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ…
  • 5
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 6
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 7
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 8
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 9
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外…
  • 10
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story