コラム

トランプ外交の方針転換は「正常化」の兆しなのか

2017年04月06日(木)17時45分

その理由として一つ考えられるのは、3月を通じて「トランプ陣営のロシアとの癒着疑惑」をずっとスッキリしないまま引きずってきたという問題があります。特に、この疑惑によって辞任に追い込まれたマイケル・フリン前安保担当補佐官が「一切の訴追を逃れるという条件(訴追免除=イミュニティ)なら議会証言をしても良い」とコメントした際には、「やはり不法行為があったのか!」という衝撃が走り、政権の支持率低下の原因になりました。

ですから、今回特に問題となっているシリア情勢に関して「アサド=プーチン」に距離を置くという方針転換をすれば、「政権がロシアと癒着している」とか「大統領はプーチンに弱みを握られている」といった疑惑をかわすことができるという思惑です。

さらに、この動きに重なるように5日にはNSC(国家安全保障会議)のメンバーから、スティーブン・バノン分析官が「外された」という報道がありました。いわゆる「オルタナ右翼」の代表として、保守本流から危険視されていたバノン氏がNSCの常任メンバーに入っていたのは、そもそも異例の処遇だったわけですし、与野党からかなり批判を浴びていたのですが、結果的にメンバーから外れることになりました。

【参考記事】対テロ軍事作戦に積極的なトランプが抱える血のリスク

こうした動きを全体的に捉えるのであれば、トランプ政権の外交路線が「極端な方向」に向かうことは阻止されて、「正常化」に向かう兆候だという見方が一番スッキリします。例えばNATOへの防衛責任を見直すといった「極端な路線」は消えたと見るべきなのでしょう。一部には、マティス国防長官とマクマスター安保補佐官が強く主張して、このような方針変更に至ったという報道もあります。

今回の急激な変化は、今週6日から始まるフロリダでの米中首脳会談の前に体制を整えたという見方もできます。そうであれば、同時に、切迫した北朝鮮の核危機への対処に関しても、「トランプの自己流軍事外交」ではなく、国務省と軍・諜報機関が一体となった「常識的な対応」が取られるという期待はできます。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

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