コラム

シカゴ・カブス108年ぶりの優勝は、トランプ現象とは無関係

2016年11月08日(火)17時20分

USA Today Sports/REUTERS

<ワールドシリーズで108年ぶりの優勝を果たしたシカゴ・カブズの快挙を、庶民カルチャーの勝利でトランプ躍進の象徴と言うメディアもあるが、実際には人種混合チームがカブズの強さであり、そのような解釈は見当違い>(写真:ヘイワード〔写真中央〕ほか優勝の喜びを分かち合うカブスの選手たち)

 MLBのワールドシリーズは第七戦までもつれる名勝負となった結果、シカゴ・カブスが108年ぶりに優勝しました。有名な「ヤギの呪い」を解くことに成功したのです。ところでアメリカのメディアでは、この「カブス優勝」はアメリカの庶民カルチャーの勝利で、「トランプ躍進の象徴」だという解説があちこちで見られます。果たして本当にそうなのでしょうか?

 確かに、現在のカブスのオーナーである富豪のトム・リケッツという人は、有名な共和党の「タニマチ」で、しかも今回はトランプ支持を表明しています。基本的には「自分のカネ」で選挙戦を進めるというトランプですが、リケッツはそのトランプに大口の政治献金をしている珍しい存在です。

【参考記事】イチロー3000本安打がアメリカで絶賛される理由

 ですが、今回このカブスを優勝に導いたカルチャーは「トランプ的」なものとは無縁といいますか、ほとんど正反対だと言えるでしょう。まず、何と言ってもカブスの強さは「人種間統合」にあります。

 例えば第七戦を決定づけたエピソードで、10回の攻撃に進む際に降雨のために試合が20分ほど中断しました。実は、この時点でカブスは完全に追い詰められていました。一旦は5対1と4点リードしていた試合だったのですが、抑えのチャプマンが打たれて6対6の同点に追いつかれてしまったのです。

 打たれたチャプマンが涙をこぼすなど、沈滞気味のナインに対して、外野の名手ジェイソン・ヘイワード選手が率先してロッカールームでミーティングをしたそうです。本人が後に語ったところでは、ヘイワードはナインに対して、次のように語ったということです。

"I told them I love them. I told them I'm proud of the way they overcame everything together. I told them everyone has to look in the mirror, and know everyone contributed to this season and to where we are at this point. I said, 'I don't know how it's going to happen, how we're going to do it, but let's go out and try to get a W.'"(「俺は、チーム全員への愛を語ったんだ。何があっても、みんなで乗り越えてきた、そのことを俺は誇りに思うんだ。みんな、鏡を見ろよ、そうすれば分かるさ。全員がこのシーズンに、そして今ここにいるということに、全員が貢献したってことをさ。さあ、これから何が起きるか、どんな戦いになるかは分からねえ。でも、何でもいいから、とにかく行こうぜ。そして優勝をつかもうじゃないか」)

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

独ミュンヘンで車突っ込み28人負傷、アフガン人運転

ワールド

マスク氏「政府機関全体を廃止」、トランプ氏推進の改

ワールド

欧州各国、米の「抜け駆け」を一斉批判 ウクライナ和

ビジネス

米新規失業保険申請、7000件減の21.3万件 小
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ガザ所有
特集:ガザ所有
2025年2月18日号(2/12発売)

和平実現のためトランプがぶち上げた驚愕の「リゾート化」計画が現実に?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だった...スーパーエイジャーに学ぶ「長寿体質」
  • 2
    【徹底解説】米国際開発庁(USAID)とは? 設立背景から削減議論まで、7つの疑問に回答
  • 3
    吉原は11年に1度、全焼していた...放火した遊女に科された「定番の刑罰」とは?
  • 4
    【クイズ】今日は満月...2月の満月が「スノームーン…
  • 5
    夢を見るのが遅いと危険?...加齢と「レム睡眠」の関…
  • 6
    終結へ動き始めたウクライナ戦争、トランプの「仲介…
  • 7
    イスラム×パンク──社会派コメディ『絶叫パンクス レ…
  • 8
    墜落して爆発、巨大な炎と黒煙が立ち上る衝撃シーン.…
  • 9
    駆逐艦から高出力レーザー兵器「ヘリオス」発射...ド…
  • 10
    便秘が「大腸がんリスク」であるとは、実は証明され…
  • 1
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 2
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だった...スーパーエイジャーに学ぶ「長寿体質」
  • 3
    Netflixが真面目に宣伝さえすれば...世界一の名作ドラマは是枝監督『阿修羅のごとく』で間違いない
  • 4
    研究者も驚いた「親のえこひいき」最新研究 兄弟姉…
  • 5
    メーガン妃の最新インスタグラム動画がアメリカで大…
  • 6
    戦場に響き渡る叫び声...「尋問映像」で話題の北朝鮮…
  • 7
    2025年2月12日は獅子座の満月「スノームーン」...観…
  • 8
    iPhoneで初めてポルノアプリが利用可能に...アップル…
  • 9
    「だから嫌われる...」メーガンの新番組、公開前から…
  • 10
    極めて珍しい「黒いオオカミ」をカメラが捉える...ポ…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 4
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のア…
  • 5
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 6
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 7
    失礼すぎる!「1人ディズニー」を楽しむ男性に、女性…
  • 8
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果…
  • 9
    戦場に「杖をつく兵士」を送り込むロシア軍...負傷兵…
  • 10
    「DeepSeekショック」の株価大暴落が回避された理由
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story