コラム

「トランプ政権下」の日米関係をどう考えるか?

2016年09月29日(木)17時00分

 例えば、トランプ政権のアメリカが「後方へ撤退」する中で、東シナ海や南シナ海の問題が現在と同じように続くとします。その場合は、韓国が中国に傾斜して、日本が中国の圧力を真正面から受けるような軍事外交の戦略では、もはや安全保障とは言えないでしょう。

 日韓関係を盤石なものとして、その延長に台湾の自由を維持するような力と外交のバランスを取らなければ、東アジアの安全は確保できません。対北朝鮮の問題も同様で、中韓が連携し、日本が孤立して、北のリスクを日本が単独で受け止めるような外交戦略というものはまずあり得ません。

 例えばトランプには「人権外交」などという発想はゼロです。ということは、アジアにおける人権の問題については、中国にしても、北朝鮮にしても、あるいはフィリピンの場合でも、日本が被害者保護や圧力行使など何らかの役割を果たしていかなければならないでしょう。

 その場合、まず日本社会において、世界から尊敬を受けるレベルの人権が確保されることだけでなく、国連やEUとの連携なども重要になってくると思います。そこで日本がリーダーシップを発揮するためには、一部の立場からは心外かもしれませんが、政治家の靖国参拝や慰安婦問題における「名誉回復」企図など「現代の価値観、国連や国際法の枠組み」から逸脱した行動は封印しなくてはならなくなると思います。

【参考記事】alt-right(オルタナ右翼)とはようするに何なのか

 国際社会における難民問題や人道支援問題などについても、トランプ政権のアメリカは「中国やロシアのように」振る舞う危険があるわけです。そうなれば、日本は欧州と連携して国連を機能させ、地球における人道危機に対処していく必要に迫られるのではないでしょうか。

 仮の話ですが、トランプのアメリカがNATOを軽視し、日米安保を軽視するのであれば、反対に日本がNATOの欧州とカナダに接近するか、あるいは加盟するというようなことも検討に値すると思います。

 一方で、ヒラリーが当選した場合は、基本的に「オバマ外交」が大筋で継承されることになるでしょうが、政権が変わることで、そこに変化が生じる可能性は十分にあります。特に「自分はオバマより強硬」だと公言しているヒラリーの場合、日米関係やアジア政策の全体で少し違うトーンになる可能性はあります。

 ヒラリーの場合は、何と言っても2009年からの4年間のアメリカ外交を主導した中で、中国との対決姿勢を取ってきたという「過去」があります。例えば、現在「南シナ海問題」と言われて世界が注目している、中国の海洋進出に対する牽制の動きというのは、すべて2010年7月にヒラリーがベトナムのハノイで行った「航行の自由」演説に端を発しているのは、誰もが認めるところでしょう。

 そこで、ヒラリーには2つの可能性があります。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

再送-〔マクロスコープ〕高市首相が教育・防衛国債に

ビジネス

NY外為市場=ドル指数5カ月ぶり高値、経済指標受け

ビジネス

米国株式市場=反発、堅調な決算・指標がバリュエーシ

ワールド

トランプ氏、民主党のNY新市長に協力姿勢 「少しは
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:高市早苗研究
特集:高市早苗研究
2025年11月 4日/2025年11月11日号(10/28発売)

課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 2
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 3
    NY市長に「社会主義」候補当選、マムダニ・ショックの行方は?
  • 4
    カナダ、インドからの留学申請74%を却下...大幅上昇…
  • 5
    もはや大卒に何の意味が? 借金して大学を出ても「商…
  • 6
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 7
    「なんだコイツ!」網戸の工事中に「まさかの巨大生…
  • 8
    若いホホジロザメを捕食する「シャークハンター」シ…
  • 9
    「白人に見えない」と言われ続けた白人女性...外見と…
  • 10
    虹に「極限まで近づく」とどう見える?...小型機パイ…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 3
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読み方は?
  • 4
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 5
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 6
    9歳女児が行方不明...失踪直前、防犯カメラに映った…
  • 7
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 8
    「日本のあの観光地」が世界2位...エクスペディア「…
  • 9
    女性の後を毎晩つけてくるストーカー...1週間後、雨…
  • 10
    だまされやすい詐欺メールTOP3を専門家が解説
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になり…
  • 5
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 6
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 7
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 10
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story