コラム

トランプのイギリス訪問で何が起こる?

2016年06月07日(火)18時20分

 ところで、今回のトランプの目的地であるスコットランドでは、このリゾートへの投資を含めた「功績」に対して、トランプに「グローバル・スコット・ビジネス大使」という称号を授与していたのですが、現在のスコットランド首相であるニコラ・スタージョンは、トランプの言動を批判してその称号を剥奪したという事実もあります。

 そんな中で、多くの人が密かにおそれているのは、イギリスの国民投票で「EU離脱」が可決された場合、トランプが「その場」で暴言を口走る可能性です。トランプからすれば、仮に「離脱」となれば、「イスラム系移民の流入に『ノー』を突きつけたイギリスの民意」を「自分の排外的なイデオロギーの追い風」にしようとする可能性があるからです。

「キャメロンは偽善者」であるとか、「イスラム系のサディク・カーンを市長に選んだロンドン市民は愚か」といった発言をするかもしれませんし、とにかく「一時は自分を入国禁止にしようとした」イギリスが、自ら排外思想に屈したのを見れば「俺様の勝利」を口にしたくもなるでしょう。

【参考記事】トランプ所有のホテルで宿泊客が激減

 仮に、今回の「ヒスパニック系判事へのヘイト発言」も、「トランプ信者」の期待に応えるために計算したパフォーマンスとしてやっているのであれば、「今月24日にEU離脱となった場合にイギリスで」という絶妙な場所とタイミングで、「何か」を言ってしまう可能性はあるわけです。

 ちなみに、トランプの立場からすれば、各国は自国の利害を中心に動くのが当然で、EUやNATOも、そして日米安保も偽善だということになります。その立場からすると、EUに「ノー」を突きつける側の民意は善で、それを阻止しようとしているキャメロンも、仮に離脱の場合はスコットランドを独立させてEU復帰を狙うスタージョンにしても、「格好の標的」になるでしょう。

 しかしよく考えてみれば、世界に「親友の少ない」アメリカにとって、イギリスと日本は貴重なパートナーです。その両国との安定した同盟関係を壊そうとするトランプは、何とも異常な存在です。仮に今月24日にイギリスに行ったとして、そこでトランプが「暴言」を口にするのか、あるいは自制するのかは、トランプが本当の意味で責任ある政党の代表候補として振る舞うことができるかの試金石になると思います。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

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