コラム

「デジタルデフレ」こそ、世界経済が直面するリスク

2016年06月02日(木)16時40分

 どうしてアベノミクスの円安が株高を呼び込んだのかというと、「海外で産んだ利益を日本円に換算すると膨張して見える」からであり、それ以上でも以下でもありません。そこには、大きな弊害もなければ明らかなメリットもなかったはずでした。ですが、この「アベノミクスの円安」が、暗黙のうちに日本の産業の空洞化を後押しして来たのは事実だと思います。

 そして今は、その行き過ぎが国内経済に大きなダメージを与えつつあります。為替の水準に関しては、1ドル120円にまで下がった一時期の方法論は過去のものとして、現在のような105円から110円といった範囲で推移するようにしておき、同時に税制などを見直して空洞化を抑制する方針に転じるべきだと思います。

 筆者個人の主義主張としては、とにかく日本は高い教育水準の維持しているうちに、最先端産業の競争力を回復し、金融を食える産業にすることが最優先課題だと思います。

 ですが経済の現況としては、とにかく当面は今ある産業の振興で「食いつないで」行かねばなりません。その産業と雇用がどんどん流出するのは、国の経済としては決して良いことではないのです。規制強化的な発想法はイヤですが、ここまで野放図に空洞化を加速させてきた政財界の姿勢はあらためられるべきではないでしょうか?

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

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