コラム

成熟国家日本からなぜ「イスラム国」に参加したいのか

2014年10月09日(木)11時30分

 古書店に掲示されたいい加減な張り紙を見てISIS(イスラム教スンニ派テロ組織、自称イスラム国)に志願する、という話にはあきれました。今回の警察の「私戦予備及び陰謀罪」適用というのは、模倣者がどんどん出てくることを防止するためのもので、このレベルの「志願者予備軍」への抑止効果はあるのかもしれません。

 ですが、フリーのジャーナリストの中東での活動まで制約されてしまうようでは、軍事や外交に関する判断材料が足りなくなり、まわりまわって日本の国としての判断を誤ることにならないか心配です。異例の「私戦予備及び陰謀罪」の適用に関しては、そうした総合的な判断も示して欲しいと思います。

 ただ、この日本の若者が「イスラム国」に興味を持ったというストーリーは、そんなに驚くこととは思いません。というのは既視感があるからです。

 1960年代の末に、東京大学医学部の学生による学部内の近代化運動が契機となって、全国に学生運動が広がりました。その運動は、ベトナム戦争への怒りや、中国の「文化大革命」への情けないほどの過大評価も手伝って一旦は拡大しました。ですが、結果的に「敗北」してゆく中で、一部の過激な部分は「共産同赤軍派」を結成しています。

 その一部が「日本赤軍」を名乗って、日本とは無関係の中東に乗り込み、正義の味方を気取って本当にテロ行為を行いました。中でも有名なのは、1972年5月に発生したイスラエルのテルアビブにあるロッド空港での「無差別乱射事件」です。日本人の若者3人がイスラエルへの来訪者など26人を殺害し、70人以上に重軽傷を追わせた事件です。

 この3人については、別にパレスチナに親戚がいるわけでも、イスラム教に理解があったわけでもありません。個人的には全く無関係であるにも関わらず、興味を持ったというだけで日本から遠く離れた中東の地に渡り、そこで大勢の人間を殺したのです。まさに、「日本の若者が興味本位でテロリストになった」という例です。

 この「イスラム国志願者」の問題について、朝日新聞は10月6日の社説で、次のように述べています。

「テロリストを摘発しようと治安対策ばかり強化しても、根源的な解決は導けない。なぜ若者が過激派に走るのか。その土壌となっているそれぞれの国内問題に取り組み、『テロリストを生まない社会』を築く努力が必要である。そのためには、心理学者や宗教者、教師、カウンセラーら、若者たちと接してきた専門家との協力も求められるだろう。幅広い知恵を結集し、息の長い取り組みを続けてほしい。」

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

米中首脳会談が終了、関税・レアアースなど協議 対立

ワールド

日中首脳会談を調整中=高市首相

ワールド

日銀、6会合連続で政策金利を据え置き 高田・田村委

ワールド

Azureとマイクロソフト365の障害復旧、一時数
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:高市早苗研究
特集:高市早苗研究
2025年11月 4日/2025年11月11日号(10/28発売)

課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 3
    女性の後を毎晩つけてくるストーカー...1週間後、雨の夜の急展開に涙
  • 4
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 5
    コレがなければ「進次郎が首相」?...高市早苗を総理…
  • 6
    【話題の写真】自宅の天井に突如現れた「奇妙な塊」…
  • 7
    【クイズ】開館が近づく「大エジプト博物館」...総工…
  • 8
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 9
    【クイズ】12名が死亡...世界で「最も死者数が多い」…
  • 10
    リチウムイオンバッテリー火災で国家クラウドが炎上─…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    中国レアアース輸出規制強化...代替調達先に浮上した国は?
  • 4
    【話題の写真】自宅の天井に突如現れた「奇妙な塊」…
  • 5
    超大物俳優、地下鉄移動も「完璧な溶け込み具合」...…
  • 6
    熊本、東京、千葉...で相次ぐ懸念 「土地の買収=水…
  • 7
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 8
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 9
    庭掃除の直後の「信じられない光景」に、家主は大シ…
  • 10
    報じられなかった中国人の「美談」
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になり…
  • 5
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ…
  • 6
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 7
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 8
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 9
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 10
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story