コラム

大学の国際化を「スーパー」にするための2つの条件とは?

2014年09月29日(月)11時19分

 最初にお断りしておきますが、私は大学教育の改革は待ったなしの課題だと思います。

 国際化、能力別指導、機会均等など、現在の教育に欠落している部分を、制度として、また指導法のメソッドとして構築することは急がなくてはなりません。

 しかし現在の日本では、こうした問題に関して、論争が深刻な「ねじれ」の状態にあります。つまり国際協調的なリベラルの側は改革に対して抵抗勢力であって、改革に熱心な側は下手をすると日本を孤立に追い込むような保守カルチャーを背景にしているというわけです。これこそ「ねじれ」であって、大変に困った状況だと思います。

 私は国際協調主義かつ改革を志向すべきと思うので、かなり孤立した立場になります。ですが、改革がここまで遅れている以上は、とにかく実務的には改革の動きを支持し、その一方で国際協調主義は守るという立場を取りたいと思います。

 ですから、以下の提言は「安倍教育改革」なり下村大臣率いる文科省へのイデオロギー的批判ではありません。改革を肯定する立場からの実務的な提言として、受けとめていただければと思います。

 今回「スーパーグローバル大学等事業」が発表されました。これには反対はしません。まがりなりにも、全国の主要大学に国際化を促すうえで、明確に予算措置がされたことは一歩前進だからです。ネーミングについても、この際センスがどうこうと言うのは止めておきます。

 ですが、とにかく大学の国際化を進めるのであれば、そしてカタカナ日本語として強い修飾語である「スーパー」を名乗るのであれば、どうしても外せない問題が2点あることだけは指摘したいと思います。

 一つは、短期留学をさせるのであれば「留学先の単位を取って来させる」ということです。残念ではありますが、現在の文科省の諸事業、そして各大学の留学事業を見ていますと、「単位は取ってこなくていい」とか「取ってきた単位は上限までであれば随意科目として単位認定する」というような甘い運用になっているケースが大部分です。これでは、留学先での学業は真剣勝負になりません。

 とにかく基幹の科目、例えば経済原論ならマクロ、ミクロの基礎科目(101や102)、工学なら例えば「バイオ・ケミカル・エンジニアリング(生化学工学)」の101や102など、それぞれの専門分野の核になる部分の単位を留学先で取ってくる、そうでなくては国際経験を生かすことは出来ないと思います。

 例えばアメリカの名門大学の場合は、ノーベル賞受賞者などのスター教授がこうした「入門編」を担当し、週3コマのうち1つを担当、残りの2コマは助教などによる少人数の演習や討論などで授業を構成しています。

 こうした場で真剣に討論や演習に参加して単位を取ってくること、さらにそうした「最先端」のカリキュラムと、帰国後の日本のカリキュラムの「接続」を考えて行かなくては、交換留学の意味は非常に薄くなると思います。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

米中貿易枠組み合意、軍事用レアアース問題が未解決=

ワールド

独仏英、イランに核開発巡る協議を提案 中東の緊張緩

ワールド

イスラエルとイランの応酬続く、トランプ氏「紛争終結

ワールド

英、中東に戦闘機を移動 地域の安全保障支援へ=スタ
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:非婚化する世界
特集:非婚化する世界
2025年6月17日号(6/10発売)

非婚化・少子化の波がアメリカもヨーロッパも襲う。世界の経済や社会福祉、医療はどうなる?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高にかっこいい」とネット絶賛 どんなヘアスタイルに?
  • 2
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波でパニック...中国の輸出規制が直撃する「グローバル自動車産業」
  • 3
    サイコパスの顔ほど「魅力的に見える」?...騙されずに「信頼できない人」を見抜く方法
  • 4
    林原めぐみのブログが「排外主義」と言われてしまう…
  • 5
    右肩の痛みが告げた「ステージ4」からの生還...「生…
  • 6
    構想40年「コッポラの暴走」と話題沸騰...映画『メガ…
  • 7
    逃げて!背後に写り込む「捕食者の目」...可愛いウサ…
  • 8
    「結婚は人生の終着点」...欧米にも広がる非婚化の波…
  • 9
    4年間SNSをやめて気づいた「心を失う人」と「回復で…
  • 10
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 1
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の瞬間...「信じられない行動」にネット驚愕
  • 2
    大阪万博は特に外国人の評判が最悪...「デジタル化未満」の残念ジャパンの見本市だ
  • 3
    「セレブのショーはもう終わり」...環境活動家グレタらが乗ったガザ支援船をイスラエルが拿捕
  • 4
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 5
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波で…
  • 6
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高に…
  • 7
    ふわふわの「白カビ」に覆われたイチゴを食べても、…
  • 8
    脳も体も若返る! 医師が教える「老後を元気に生きる…
  • 9
    ファスティングをすると、なぜ空腹を感じなくなるの…
  • 10
    アメリカは革命前夜の臨界状態、余剰になった高学歴…
  • 1
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 2
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 3
    日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山、上野...中国返還のその先
  • 4
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊…
  • 5
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 6
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 7
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 8
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシ…
  • 9
    ドローン百機を一度に発射できる中国の世界初「ドロ…
  • 10
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story