コラム

「シリア領内空爆」は本格的な戦争の始まりなのか?

2014年09月24日(水)13時29分

 アメリカ時間の今月22日、既にオバマ大統領が演説で予告していたように、米軍はシリア領内への空爆を開始しました。例によってTVニュースには「おどろおどろしい」映像があふれています。

 夜間に空母から戦闘機が発進する映像や、赤外線映像と思われるコントラストの強い白黒画面での「標的への爆撃成功」映像などですが、イラク、アフガニスタン戦争以来見慣れた映像がTVで報道されると、また新たな戦争が始まったという思いがします。この日の作戦では、45機の米軍の戦闘機(ドローンを除く)が投入され、200発のミサイルで攻撃が行われたと発表されています。

 では、これはアフガニスタン戦争、イラク戦争に続く「第三の反テロ戦争」なのでしょうか? あるいは湾岸戦争、イラク戦争に続く「第三のイラク戦争」なのでしょうか? そうした歴史的な定義以前の問題として、これは「アメリカが本格的な戦争に関与していく」ことになるのでしょうか?

 どうもその点は不明確なのです。

 まず、22日の空爆に関する発表と報道を総合しますと、これまでに「ISISへの対抗」が必要だとして言われてきたストーリーが少し変わっているのです。要するに、クルド人やモスルのキリスト教徒への迫害、米英のジャーナリスト殺害などを続けてきた「ISIS」とNATOなど欧米勢力が戦うという枠組み「だけではない」、今回の空爆はそのように位置づけられるようなのです。

 具体的には、3つの新しい条件が加わったと言えます。

 一つ目は、「敵はISISだけではない」という問題です。22日の空爆では、ISISの拠点に加えて、「コーラサン」というグループの拠点への攻撃が行われ、この「コーラサン」の拠点を破壊することに成功したという発表がされているのです。

 この「コーラサン」ですが、国防総省の発表ではアルカイダの分派だというのです。イエメンなどで戦っていたが、アメリカの執拗な攻撃に耐えかねて逃亡したテロリストなどが、シリア領内で再集結して出来たものです。

 しかしアルカイダとは活動方針が違うのだそうです。この「コーラサン」は「欧米への攻撃」を主要な目標に掲げている、従って大変に危険であり、危険が切迫していたので今回の空爆が決断されたというのです。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

米中貿易枠組み合意、軍事用レアアース問題が未解決=

ワールド

独仏英、イランに核開発巡る協議を提案 中東の緊張緩

ワールド

イスラエルとイランの応酬続く、トランプ氏「紛争終結

ワールド

英、中東に戦闘機を移動 地域の安全保障支援へ=スタ
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:非婚化する世界
特集:非婚化する世界
2025年6月17日号(6/10発売)

非婚化・少子化の波がアメリカもヨーロッパも襲う。世界の経済や社会福祉、医療はどうなる?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高にかっこいい」とネット絶賛 どんなヘアスタイルに?
  • 2
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波でパニック...中国の輸出規制が直撃する「グローバル自動車産業」
  • 3
    右肩の痛みが告げた「ステージ4」からの生還...「生きる力」が生んだ「現代医学の奇跡」とは?
  • 4
    林原めぐみのブログが「排外主義」と言われてしまう…
  • 5
    サイコパスの顔ほど「魅力的に見える」?...騙されず…
  • 6
    構想40年「コッポラの暴走」と話題沸騰...映画『メガ…
  • 7
    逃げて!背後に写り込む「捕食者の目」...可愛いウサ…
  • 8
    「結婚は人生の終着点」...欧米にも広がる非婚化の波…
  • 9
    4年間SNSをやめて気づいた「心を失う人」と「回復で…
  • 10
    メーガン妃の「下品なダンス」炎上で「王室イメージ…
  • 1
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の瞬間...「信じられない行動」にネット驚愕
  • 2
    大阪万博は特に外国人の評判が最悪...「デジタル化未満」の残念ジャパンの見本市だ
  • 3
    「セレブのショーはもう終わり」...環境活動家グレタらが乗ったガザ支援船をイスラエルが拿捕
  • 4
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 5
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波で…
  • 6
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高に…
  • 7
    ふわふわの「白カビ」に覆われたイチゴを食べても、…
  • 8
    脳も体も若返る! 医師が教える「老後を元気に生きる…
  • 9
    ファスティングをすると、なぜ空腹を感じなくなるの…
  • 10
    アメリカは革命前夜の臨界状態、余剰になった高学歴…
  • 1
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 2
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 3
    日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山、上野...中国返還のその先
  • 4
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊…
  • 5
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 6
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 7
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 8
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシ…
  • 9
    ドローン百機を一度に発射できる中国の世界初「ドロ…
  • 10
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story