コラム

オバマ訪日に見え隠れする「ヒラリーの外交」とは?

2014年04月22日(火)11時24分

 ですから、現在のオバマ政権の「アジア重視」という軍事・外交政策に関しては、相当程度が「ヒラリーの外交」だという見方があるのです。また、その外交が行き詰まるようですと、「これはヒラリーの失点」だということにして、2016年の大統領選へ向けて政局の材料にしようという政治力学もあります。

 そうした観点からは、例えば「ウクライナ問題で中国がロシアと手を組むところまで中国を追い詰めるのは得策ではない」とか「対中国政策ばかりに手を取られて、イラン問題、中東和平問題で成果がないのも困る」という言い方が出て来るのです。つまり、米国の軍事・外交に関して中国にばかりパワーを割くのは問題だというわけです。

 例えば、安倍首相が靖国参拝をしたり、ダボス会議での反中発言が大きく報じられたり、あるいは直近の例で言えば、オバマ訪日の直前になっても「閣僚の靖国参拝が止まらない」中で、中国がどんどん「歴史の問題で身勝手な正当性を主張し続ける」状況になっているとして、そうした全てが「上手くいかない」ことになれば、それはオバマの失態であるだけでなく、ヒラリーの失態だ、そうしたロジックがあるのです。

 そう考えると、ライアン議員の「安倍首相は日本のレーガン」というリップサービスに乗って、「共和党イコール親日」だと思い込むのは軽率だと思います。共和党は、ヒラリーが開始してオバマが継続している「中国とのリバランス」という政策を冷ややかに見ていると言うべきでしょう。その「冷ややか」な態度に関しては、例えば「電撃訪中をして毛沢東と和解したのは共和党のニクソン」だという事実も忘れてはならないと思います。

 いずれにしても、2016年はまだ先であるとはいえ、今秋の中間選挙が終われば選挙戦は動き出します。その際にはヒラリーという人が台風の目になるのは間違いないと思います。現時点では、ヒラリーの2016年勝利ということを前提に、現在の対中国「リバランス」という政策が当面は続くという見立てを持ちながら、日米が共通価値観を確認しつつ、中国との軍事・外交上のバランスを確保するということになると思います。その意味では、今回の首脳会談の落とし所は非常に狭いのではないかと思われます。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

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