コラム

オバマ訪日に見え隠れする「ヒラリーの外交」とは?

2014年04月22日(火)11時24分

 オバマ大統領の3回目の訪日を直前に控えて、アメリカから超党派の議員団が日本に入っています。その中でも下院予算委員会の委員長である、ポール・ライアン議員(共和党)は、日本に対して構造改革を進めるように要望した一方で、安倍首相のことを「日本のレーガン」だと持ち上げたそうです。

 このライアン議員ですが、前回2012年の大統領選では、ロムニー候補の副大統領候補として一緒に選挙戦を戦った人物です。保守系ですが、いわゆるティー・パーティー系とは一線を画した存在で、コストカッターではありますが、漠然とクラシックな保守本流のイメージもあり、大統領選の敗北後も政治的には決して傷は深くありませんでした。2016年には、有力な大統領候補の一人として出て来る可能性は高いと思います。

 この報道の「やり取り」だけを見ると、「やっぱり共和党のほうが親日だ」とか「ライアン氏が大統領になれば『失望』などということは言わないだろう」というような印象を持つ方もあるかもしれません。

 ですが、そう簡単には行かないと思います。

 まず、アメリカの政局の流れからすると、今回のオバマ訪日という事件は、残り2年半強となったオバマ外交の成否を評価するための材料という性格は薄いのです。そうではなくて、例えば共和党保守系の見方からすると、2016年の大統領選を意識した上での「ヒラリー外交の試金石」だと言われています。

 どういうことかというと、軍事的に拡大を始めた中国に対して、プレッシャーをかけて「バランスを取り直す」という政策を開始したのは、前国務長官のヒラリー・クリントンだからです。そして、そのヒラリーこそ、共和党としては、2016年にホワイトハウスの主の座を争う、最有力候補に他なりません。

 今回のオバマのアジア歴訪は、日本、韓国、フィリピン、マレーシアの4カ国ですが、いずれも中国との間で摩擦を抱えている国々です。これらの国々を回って、アメリカの存在感を確認しつつ、中国に対して強すぎず弱すぎないプレッシャーをかけて、軍事面・外交面でのバランスを取り直す、これが今回の歴訪の目的です。それが成功するかどうかは、オバマへの評価だけでなく、ヒラリーの外交路線への評価ということになる、そうした見方がされているのです。(例えば、FOXニュースのコラム、NYタイムスの記事などによる)

 ヒラリーに関して言えば、日本との関係で言えば、彼女の言動の中で顕著であったのは、尖閣への安保条約適用を明言したことぐらいですが、彼女の「対中国外交」というのは、ある意味で徹底していたと言えるでしょう。例えば2010年にベトナムで行った「航行の自由確保」というスピーチは、南シナ海における中国の拡大主義に対する明確な牽制として、今でも政治的な効果が続いていると言えます。また、中国の影響力下で閉ざされていたミャンマーという国を、国際社会に開いたという功績もあります。中国の人権問題に関して、終始原則論を貫いたのもヒラリー外交でした。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

アングル:「豪華装備」競う中国EVメーカー、西側と

ビジネス

NY外為市場=ドルが158円台乗せ、日銀の現状維持

ビジネス

米国株式市場=上昇、大型グロース株高い

ビジネス

米PCE価格指数、インフレ率の緩やかな上昇示す 個
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された米女優、「過激衣装」写真での切り返しに称賛集まる

  • 4

    中国の最新鋭ステルス爆撃機H20は「恐れるに足らず」…

  • 5

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 6

    アカデミー賞監督の「英語スピーチ格差」を考える

  • 7

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 8

    19世紀イタリア、全世界を巻き込んだ論争『エドガル…

  • 9

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 10

    大谷選手は被害者だけど「失格」...日本人の弱点は「…

  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた「身体改造」の実態...出土した「遺骨」で初の発見

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 8

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミ…

  • 9

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 10

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の瞬間映像をウクライナ軍が公開...ドネツク州で激戦続く

  • 3

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈する動画...「吹き飛ばされた」と遺族(ロシア報道)

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 6

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 10

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story